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zoom RSS 山登ってみよう【槍ヶ岳・前編】

<<   作成日時 : 2017/08/08 21:55   >>

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 深田久弥は、著書「日本百名山」の中で、富士山を日本人憧れの山とするとともに、槍ヶ岳は日本に生まれて山に魅せられた人間が憧れる山だという意味のことを書いている。異論もあろうが、けだし真理なのだろう。かくいう私も、興味自体はずいぶん早くから持っていた。何といっても姿形があまりにも特徴的なので、いやでも目を引く。その一方で、峻険そのものの山容は素人がうかつに登って良いような山とは思われなかったので、憧れは憧れのままで終わる可能性があった。ところがしかし、アルプス方面の山を登っていると、次第に槍ヶ岳の評判が聞こえてくるようになる。と同時に、専門的な技術がなくとも登れる山だと言う評も。日本第二の高峰北岳の登頂に失敗し、情熱の持って行き場を失っていた私は、いつしか「槍登ってみよう」と思うようになっていた。

 一応、今期は槍用にいろいろと準備を進めてきた。それはこれまでこのブログにも書いた通り。もともとは、最短ルートだと言われる新穂高温泉方向の飛騨沢から登るつもりでいたのだけれど、前進基地とするつもりだった平湯温泉は穂高荘倶楽部が定休日にあたる日に決行を企てていたことが分かり、夜行バスで上高地に入った後、その奥地の槍沢から登る方針に変更。かなりの差が生まれるのかと思っていたが、歩行時間で言うと1時間余り槍沢側の方が長くなる程度だとわかった。そして迎えた決行の日。前数日間にわたって不安定な天候が続くとともに、7月27日の夜には新穂高に通じる岐阜県道475号線で落石が発生し、交通規制が発生するような状態になっていたというから、何が幸いするか分かったものではない。一般に飛騨沢側は、渡渉があることから雨後の増水に弱いコースだとされている。

 名鉄バスターミナルを出る上高地行の夜行バスには、水曜深夜便と言うタイミングもあってか空席もあった。少なくとも4列シートのうち私の隣席は空いており、多くの一人客は事実上一人で二席を使えるような状態だったのだと思う。乗客はみな、山行の格好をした者たちばかりだった。彼らが目指すのは、槍か、穂高か、あるいはそれ以外か。

 そして8月3日の5:15、上高地バスターミナルに降り立つ。入口のトンネルの開門時間の影響があるのだろう、続々と同じような夜行バスが集結してくる。あっという間にターミナルに隣接する広場は、バスから降りてきた登山者の姿であふれかえっていった。

画像 身支度を整え、登山届を提出した後、そそくさと出発する。今日の行程はかなり長い。コースタイムで10時間の歩行を強いられることになる。一応それよりは短時間で歩き切るつもりではいるが、どうなるか分かったものではない。提出した登山計画上は、槍ヶ岳の方に位置する槍ヶ岳山荘には15時到着となっている。夏山では15時までに行動を終わらせるようにと昔から言われてきたが、最近では14時を回るや天候が急変することも珍しくないという。とにかく、本格的登山道の始まりとなる横尾までは普通に歩いて3時間コースとされており、まずはこれを速やかに消化しなければならない。この間の蝶ヶ岳登山の時の道のりの遠さを思い出して少し辟易するが、明神、徳澤と歩いて穂高方面との分岐点となる横尾大橋の前を通り過ぎた時点で、時計は7:38を示していた。距離的には、ここまでで半分歩いたことになるが、ここまでと同じだけの時間で山頂に立てるというわけでは、もちろんない。

画像 ここからまずは槍沢ロッヂを目指す。一応、道幅は狭まり、傾斜も加わってきて、上高地の核心部にあるような自然探勝路とは違う、はっきりと登山道と言える道が始まった。が、まだ緩やかにアップダウンを繰り返す程度で、厳しい道のりと言う感じはしない。なんだかんだ言って本格的な登りが始まるのは槍沢ロッヂの前後以降。ガイドでは横尾まではほぼ平坦な道だとされているので、この区間はさしずめその中間の踊り場みたいなものなのだろう。道は、槍沢の左岸を続いていく。道中、槍見河原と呼ばれる河原がある。普段から小さく槍の穂先が見える程度のものでしかないらしいが、たぶん今日は明らかに何も見えていない。天気は快晴とは言い難く、青空がのぞいていなくもないが、穂高などの雰囲気からして、3000m前後の峰は雲に覆われていることを覚悟した方が良いのかもしれない。まあ、山頂からの展望を諦めることになりそうなのは残念だが、あの容貌魁偉な鋭鋒に登ることに、今回の山行の大きな意味を見出している。

画像 8:51、槍沢ロッジ前に到着。一般に売られているガイド本なんかだと初日の宿泊地にされていることも珍しくない山小屋だ。一気に頂上直下まで上がるのが体力的になかなか大変だというのもあるのだろうが、朝一番から上高地を歩き出すことができるスケジュールを実現できないと、そもそも画餅に終わるような行程だというせいもあるのだろう。まともな社会人にとってはここが一番難しい。今日はもちろん、序盤も序盤に過ぎないので通過するだけだが、長丁場になることは避けられないので早めの休憩。かの大人気山漫画「山と食欲と私」で、加藤文太郎の甘納豆と素揚げ小魚に憧れてオリジナルの行動食を作る話があったが、私はさらにそれに影響されて、セブンイレブンで手に入れたハチミツ風味の梅干し(種抜き)を今回の山行に携帯している。なんか、クエン酸とかアミノ酸が疲労した体に良さそうではないか。口に運ぶと、食味もなかなか悪くない。何となく、体に活力がみなぎってきたような気がする。もっとも、後に弱点も判明するのだが、調子に乗って量を食べるとてきめんにのどが渇くのがこのハチミツ梅の残念なところである。

 しばし休憩するが、ロッヂ前の指導標に「横尾 4.0q 槍ヶ岳 5.9q」とあるのを見て、なんとなく気が急いてきた。横尾からここまでの1.5倍の距離を残すのみと考えれば短いようでもあるが、標高差を考えると約6qは長い。4時間くらいはかかるだろうか。休憩もほどほどに先を目指す。日本第五の高峰でありながら、いまだ槍ヶ岳はその姿をかけらほども見せず、そのことからも道のりの遠さが思われた。まあ、取り巻きの山が高く険しいせいもあるのだろう。山と高原地図によれば、赤沢山とか西岳とか記された、まったくの無名ではないけれどそんなに世間の耳目を集めることもないだろう山が衝立になっている感じだ。かろうじて、よく知られる東鎌尾根の末端部と思しき稜線が見える。

 ほどなく、残雪が姿を現した。今年は多いらしい。よく言うお守りがわりに軽アイゼンを携行したものの、傾斜していないので別に装着しないでも歩ける。強いて言うなら、ここで日テレ関係者らしい一団とすれ違うことになり、足元の怪しげな雪の上でおっかなびっくり身をかわすことになったくらい。このまま、この先に何カ所か存在しているという雪渓をすべてパスできるとよいが。まあそれだと軽アイゼンが名前ほどには軽くない死重量になるので、それはそれで面白くないような気もするけれど。

画像 30分ほど歩いて、馬場平にある槍沢ロッヂのテント場(と言うにはえらく遠い気がするが)を通過。さらに9:56に槍沢大曲りを通過。ここから稜線上に一気に上がれば水俣乗越、あとは東鎌尾根を詰めていく形になるのだけれど、さすがにそれはなかなかハードそうなので、私はひたすら槍沢を遡行するような道を行く。気が付けば、青空はその面積を増していて、谷筋を槍の山頂に向かって突き上げていく道を歩いていると、まるで周囲の山並みが両手を広げて迎え入れてくれているかのような錯覚に陥りそうだ。
 
画像 気が付くと高木が途絶えていた。樹林限界を超えたわけではなさそうだ。谷底を高巻くような道は割と傾斜がきつく、大きな木が生育するのに向いていないということなのかもしれない。そしてこの谷底にわだかまった雪が。今年はまだ雪消を迎えておらず、槍沢大雪渓とでもいうべき景観を作り出している。どうもこの雪の斜面を歩かなければならないらしい。私などは、白馬岳にも興味を持ちながら大雪渓は避けたいほど雪が嫌いなのに、まさかここでこんな目に遭おうとは。もっとも、ここもアイゼンはなしで歩くことができる。歩くことはできるが、何百メートルかを慎重に歩いた。

つづく




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