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zoom RSS 山登ってみよう【槍ヶ岳・後編】

<<   作成日時 : 2017/08/10 21:46   >>

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 夜半、頭痛とともに目が覚めた。場所が場所である。これが高山病でなくて何だというのか。それでなくても、体質的に高山帯に弱いことは自覚しているのだ。気のせいで済ますには結構症状が重いため、布団の中で転々とする。なかなか寝付けないので、気分転換のため外に出て満天の星空でギャラクシィ!をしようと思い立つが、どうも雨が降り始めているらしい。天気予報の内容からして明日まで残るものとは思えないが、なんとなく幸先が悪い。おとなしく部屋に戻り布団の中で悶々とする。そして夜が明けた。

画像 この時のために購入した折り畳みヘルメットをかぶり、そのほか身支度をして外に出てみる。雨は上がっていた。しかし、周囲は薄靄の中に煙っていた。ガスと言うほどに濃くはなく、まだ暗いうちに槍の頂に登った人の動静を、肩の小屋あたりから眺めることができる。個人的にはグーテンモルゲンとか何とかには興味がないからよかったようなものの、この調子では未明から行動を開始していた人はご来光を眺めるどころではなかったに違いない。

画像 それにしても、穂先に登って登り始めている人の数が少ない。人が多い中登るのが良いのか、少ない中登るのが良いのか、少し迷うところはあったけれど、まったく人けがないわけでもないので、多くの人が動き出すよりも早く、頂を踏んでおくことにした。4:47、クライムオン。穂先の根本付近はまだ普通のガレた山道みたいになっているが、その先はすぐに急峻な岩場が始まる。登るというより、攀じる世界。ペンキマークを頼りに進んでいく道を探す。まさしく想像した通りの世界。なのだけれど、前評判として聞いていた通り、フリークライミングほどに厳しい登攀ではない。足を置く場所は必要十分にあり、基本的に手はバランス保持のために岩をつかむ程度の働きをしていればよい。鎖場にしてもそれは同様で、ある程度慣れた人なら、鎖がなければないでも登れそうな感じだ。まさしく、鎖は補助として使うという伝聞のままの世界である。とは言え、素人の私は念のため鎖をつかんでおくようにする。厄介なのは岩が冷たく冷えていることで、長く手を触れているとかじかんできそうなことだ。一応夏山用グローブはザックの中に入っているのだけれど、素手の感覚の方を頼りにしたいと思い、この最終アタックには持ってこなかった。俗にいう空身で登っているので、昨日の今日でもさほど苦も無く登っていけるが、ここだけは失敗したかもしれない。

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画像 それに見た目ほど登るに苦労はしない岩場とは言え、落ち着いて立ち止まっていられるような余地は少なく、何かの拍子にバランスを崩そうものなら、何百メートルか滑落しそうなのは事実だ。強いて言うなら、危険寄りの安全と言った雰囲気の岩場が続く。たぶん、これが劔岳だの奥西稜線だのとなるにつれ、どんどん安全寄りの危険にシフトしていくのだろう。何年か前、照英タレントが出演する日清ラ王のCM撮影のため、槍ヶ岳の山頂にちゃぶ台を置き、一般登山者を締め出したという事件があったが、こんな落ち着かない場所に足止めを食うことになれば、そりゃ待ちぼうけを食わされた側は怒るだろう。

画像 そんなひりつくような崖を登り続けること20分ほど。何度かの鎖と梯子をやり過ごし、最後にかなり長めの梯子を登りきったところが山頂だった。ちなみに槍ヶ岳の梯子は登り切った先の持ち手部分がかなり長いしつらえとなった親切設計なので、登っていて安心な構造である。強いて言えば前夜の雨か夜露か知らないが、ちょっとグリップが十分でない感じになっていたのが頼りなかったくらいか。とにかく5:09、槍ヶ岳の絶頂に立った。先客はわずかに二人の姿があるばかり。小さな山頂だがガランとしていて、「槍ヶ岳では渋滞が発生する」と言う言説が都市伝説の類に感じられてしまうような状態。しかもこの二人はほどなく、山頂から姿を消した。槍ヶ岳山頂独りぼっち。奇跡のような展開。強いて難を言うなら雲が多く、穂高などはまるでその姿を望めないことだが、大天井岳の方は辛うじて見晴るかすことができるし、雲の切れ間には富士山っぽい山が見えている。別に穂先がガスにまかれているわけではなかった。天気に恵まれない人は、何度登っても槍の穂先さえ望めないまま撤退することもあるのだそうだが、それを思えばあまりにも恵まれすぎている。10分ほど山頂にとどまった後で、山荘を目指して引き返したが、このタイミングになってようやく、後続の人が次々に山頂を目指す状態になっていた。何となく、蜘蛛の糸にすがるカンダタの心境はこうしたものだったのだろうかと言う思いが脳裏をよぎる。そんなよこしまな考えで下ると滑落でもやらかしそうだが、慎重に、登りより長めの30分をかけて山荘まで戻った。山頂は、すでにガスに飲まれようとしていた。

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画像 10分ほどで身支度を済ませ、下山を開始。ガスが濃く、下界の様子がよく見えないが、横尾まで逃げ切れればそれ以降は雨が降り出しても大過はない。全体で7時間ほどかかるだろうか。目標は、上高地バスターミナルに13時到着。白いもやがかかっているとはいえ、視界不良と言うほどではなく、ペンキマークを頼りに進んでいけば道に迷うようなことがない。

画像 昨日はあれほど苦労した坂だけれど、今日は下るだけなので体力的には楽である。40分ほどで殺生ヒュッテの下まで到達した。これより下はすっかり霧が晴れているが、振り返ってみるも、槍ヶ岳の姿はまったく見えない。代わりに、これから進んでいく槍沢と上高地の外れが見える。雄大な景色だ。道のりはそんなに遠そうには見えないが、たぶん20q程度はあるので、数時間コースとなるのは避けられないところなのだろう。

画像 今日は金曜日。休日と言うわけでこそないが、登山者の姿は昨日より多い。下山者も多い。渋滞などと言うほどではないが、例の雪渓などではすれ違いが億劫である。それでも進捗ははかどり、7:50に槍沢大曲、8:38に槍沢ロッヂに到着。一服し、9:41に横尾を通過、10:23に徳澤で最終休憩。ここから上高地バスターミナルまで一気に歩き通して11:45のゴール。結構飛ばしたのには理由があり、道中の平湯で温泉につかっていくのもよいだろうと思い始めていたのだった。

 ところが、よくよく調べてみると、平湯から高山行路線バスへの乗り継ぎが思いのほかスムーズで、良くも悪くも時間が作れない。そこへもってきて高山から先あてにしたい特急ひだもしくは高山本線普通の本数がそんなに多くないので、どうせなら速やかに高山まで出てしまいたい思いと板挟みになる。特急を使っても高山から名古屋まではいやに時間がかかるので、早めに帰れるのは魅力だ。結局、温泉はパスすることにした。歩いている最中はアルプス街道が良いかひらゆの森が良いかいろいろ考えていたのだけれど。一方、そうしてたどり着いた高山駅はいろいろな点で勝手の良い駅ではない。窓口や券売機の応対能力はそんなに高くなく、数多い観光客を速やかにさばき切れていない。しかも、駅舎は新しくなっても、ホームに自由に入れないシステムは相変わらずなので、なんとなく行動を制約されている感が面白くない。加えて高山駅は基本的にキオスクがある以外は店舗などもなく、暑い夏の盛りに涼しく時間をつぶせるようなところもない。観光地である高山の街中までは少し距離があり、改めて向き合ってみると、とにかく山用の大荷物を背負って動き回るには不適な環境である。これなら濃飛バスの高速バスを使った方が総合的に利便性が高かったような気もするが、そうしなかったのは高山本線の駅の思い出を収集したかったという一点に尽きる。もちろん、バスも2時間に一本程度の割で走っているだけだから、そんなに都合よくはいかなかった可能性はあるのだけれど。

 とにかく、私の槍ヶ岳登山は終わった。ハードだったようでもあるし、あっけなかったようでもある。満足は得られた。ただ、次はなんとなくもう少しまったりムードで登れる山がいいかな、とも思う。今期の高山じまいは、初志貫徹して白馬方面か、それとも最近注目度を高めている八ヶ岳か。

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山登ってみよう【槍ヶ岳・中編】
 そして雪渓が終わり、また夏道。心なしか傾斜が増しているような気がする。もしくは空気が薄くなってきたせいか、だいぶ長丁場になってきたせいか、歩いていて息が上がる。とにかく、だんだん苦境に追い込まれてきたことだけは間違いない。11:05、天狗沢分岐に到着。登りの険しさもさることながら、残りの水分が心もとなくなってきているのも辛い。たぶん、あの梅のせいで水分をがぶ飲みしたのが祟っている。一応、地図を見ると同中には水場があることになっていて、確かに「水沢」とペンキマークの施された岩場の湧水が50... ...続きを見る
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