流行っているか、「八尺様」

 この頃ではすっかりオカルトの方角に近づかなくなったのだが、こちらの記事によると、最近では「八尺様」というのが静かなブームになっているらしい。興味関心を持たない人間が知らないあたり、本当にささやかなブームである。かかる事態は、ブームの程度を知る上で一つの尺度にはなる。

 一尺は、おおよそ30cm強の長さである。つまり八尺は250cm弱ということになるのだが、くだんの「八尺様」は身長2m以上の大女なのだそうだ。これが若い男に憑いて取り殺すのだという。実体があるのだろうか。たぶん霊体という設定なのだろう。赤い服を着ているとか黒いロングコートを着ているとか、何となく口裂け女を意識しているのかな、という雰囲気はある。

 それは良いのだが、どうもその後が気になる。

…さらに、この妖怪は地蔵や塚を使って結界を張り、封印されているともいわれているが、数年に一度ぐらいの頻度で、人間を襲うとされている。一説によると、ある地域で結界が崩壊し、集落の外に逃走したとも噂されているのだ。
 筆者のもとに送られてきた情報によると、「八尺様」に魅入られた人は、なかなか逃げきれないらしく、部屋中にお札が貼られた場所に隔離されるとも、僧侶4、5人で守護しないと危険であるともいわれている。…


 小道具はそれらしいのだが、本物の伝統的宗教がこの種の魔除け・厄除けを行うとは考えにくい。つまり「八尺様」は、一見それらしいとも言いにくい、マンガレベルの宗教儀礼と結び付けられている。ジャンル的には「退魔物」という区分もあるらしいが、そうしたジャンルの若者向け創作品が、上引用にあるような儀式を良く行っていると思う。一昔二昔ほど前の怪異には、そういう説明じみた設定はあまり見られず、問答無用で命を取りに来るような、直截的怪奇性・異常性をアピールするものが多かった。

 「八尺様」を簡単に検索してみる限り、この話の出自もまた一編の創作怪談で、これに共鳴した人たちが次々に設定を付加し、育てていったものと見なし得る。そしてそう考えると、「八尺様」のキャラクター設定に、計算されたものなのか当今見られる一部の先鋭的フェミニズムに対する皮肉と、もっともらしくそれを解説してみせる都市伝説分析の手法に対するミスリードめいたものがこめられているようにも見える。

 多少脱線したが、ステレオタイプなオカルト嗜好の設定が取り入れられる現象から見えてくるのは、怪奇趣味や宗教的秘儀に関心を抱く層が一定数存在しながら、一方で彼らが本物から遠ざけられ、それに触れる機会が確実に減っている実態だろう。ねじれた現象である。マンガみたいなカルト宗教が受け入れられる土壌もまたそこにあるのかもしれないと思うと、別の意味で怖くなるような話だ。

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