気が付けば晩夏

 毀誉褒貶はあるが、深田久弥がものした「日本百名山」の盛名は、未だ衰えるところを見せず、多くの人が選ばれた百座の山に登っているものと思われる。しかし、当落線上から零れ落ち、事実上無冠の地位に甘んじている山も多くある。実際には深田のフォロワーによって日本二百名山や日本三百名山が選定され、あるいは別の立場から新日本百名山が選定されたりする過程で、深田が切らざるを得なかった山が拾い上げられたりもしているが、一般的な知名度は低く、滅多に顧みられることが無い。霞沢岳もそうした山の一つだ。

 霞沢岳は、北アルプスの南部に位置する。島々から徳本(とくごうとうげ)を越えると上高地に至るが、現在一般的に歩かれる登山ルートは、この徳本峠を経由するルートで、霞沢岳は上高地を挟んで穂高岳と正対する。梓川左岸の山域としては最南と言って良いだろう。イメージ画像としては下のような感じ。奥穂高(の上空)から見た時に見える赤楕円の中央付近のピークが霞沢岳の山頂だ。また、楕円の左端付近の沢筋が、徳本峠への道となる。参考までに、円の右端付近に見える水場が大正池だ。

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 徳本峠からの道は、一般的なルートとは言うものの、峠から山頂までの距離が長い。長い上に、山頂は実質どん詰まりと来ているため、アルプス縦走の過程で歩かれることは、ほとんどないと言われる。かつては、大正池や帝国ホテル辺りから一気に山頂を目指すルートがあったそうだ。これが生きていれば大正池まで歩きとおす縦走者もいたのだろうが、現在はすっかり藪化してるのだそうだ。百名山として入山者が多ければ、この道が維持されていたのかもしれないが、現在では距離の短さ以上に難易度の高さが先に立つ道になってしまったため、徳本峠経由ほぼ一択状態となっている。

 徳本峠には、上高地でも一般観光客が入り込む最奥と思われる明神付近から登り詰めることになる。河童橋から明神まで1時間弱程度。そこから峠までが2時間。さらに峠から霞沢岳山頂まで、アップダウンのある稜線を辿りながら3時間余り。要するに往復コースタイムで13時間以上がかかる道のりとなる。知名度は低いが、北岳の代わりに登ってみようとする理由がここにある。最大のネックとなるのが、事実上上高地スタート・上高地ゴールとせざるを得ない部分だ。上高地宿泊はなかなかハードルが高く現実的でないが、上高地域内への出入りはゲートで管理されており、これの開門時間が、7月~8月は午前5時~午後8時、それ以外の期間で午前5時~午後7時となっている。13時間強のコースタイムは、最速で上高地に入り、最遅で上高地を出るのとほぼ同義だ。

 考慮すべき点はさらにある。上高地入りの方法。一番考えやすいのが、平湯泊り、朝一番の路線バスで入るというものだ。しかし、8月21日で盛夏ダイヤが終わるようで、それ以降は盛夏より30分近く遅く、つまり午前5時と言うより午前6時に近いタイミングでしか上高地バスターミナルに入れなくなる。単純に考えて、霞沢岳登山を決行に移すなら、その判断のリミットが近づいているということになる。ただ、オンシーズンには、名鉄バスが名古屋から上高地まで直通の夜行バスを走らせているのだそうだ。これを使うと、とどのつまり5時15分に上高地からスタートを切ることが可能となりそうだ。一つ難を言えば、ぐっすり眠れない夜行バスの夜が明けた後、標準で13時間の道のりを歩くのは難易度が高そうと言うところ。なお、この夜行バスと言うのが、どうやら上高地に行く前の午前4時頃に新穂高に立ち寄るものとなっているようだ。走るルートとしては、東海北陸道を飛騨清見で降りた後、平湯から安房トンネルを抜ける前に新穂高に向かい、そこからさらに上高地に折り返すものなのだろうか。

 また、上高地発の路線バスは、一番遅い便で18時にバスターミナルを出る。時期による異同はなく、平湯方向に向かっても、松本方向に向かっても同じで、上高地滞在を18時まで引っ張ると、公共交通でその日のうちに名古屋まで戻る手立てがなくなる。高山もしくは松本までは移動できても、その先の脚がない。泊まる場所が必要になるが、シーズン中の高山も松本も、急の予約で泊まれるような宿泊施設はなかなかないことを考えると、平湯泊まりにするのが賢明なのだろう。なお、18時のバスに間に合わなかった場合、タクシーで平湯まで引き上げれば、5000円未満で移動が可能なようだ。

 総合すると、平湯に一泊して霞沢岳に挑み、その夜も平湯に泊まる前提の計画にしないと破綻しそうなのだけれど、つまりは2泊3日コースになるため、普通の週末に持ってくるにはハードルの高い山旅となる。名鉄バス利用を前提とした方が良いのだろうか。天気が悪ければ当然キャンセルの旅なのだが、この夜行バス自体がそういうことが起こり得るものとして運用されているもののようだ。

 一つのリミットである21日までに検討を済まさなければならない材料が多いため、盛夏の霞沢は見送らざるを得ないかもしれない。落ち着くべきところは、夜行バスで上高地入り、撤退ポイントを設定しながら、未踏覚悟で霞沢に挑む方法だろうが、この期に及んで足ごしらえが足りないような気もし始めている。

 アルプス枠転じて平湯温泉湯治枠のニュアンスが強くなってきたあちら方面への山旅を、近いうちに実現したいという欲求は未だ消えない。そこで考えたのが、麓から美ヶ原に登って、その日の夜は平湯泊まり。翌日、乗鞍の魔王岳・摩利支天岳をつまんで帰るというもの。こちらはいろんな意味で無理をしなくて済むのが良い。トレーニング的要素に欠けるのだけは残念だけれど。

 ところで、深田が百名山から外すにあたって、「及第すれすれ」として明確に言及した山は以下の通り。名称は、「日本百名山」の後記に出てきたままで、一般的でないと思われるものもある。また、「アリ寄りのナシ」と「ナシ寄りのナシ」が混在していると思われる。特に、関西・中国の大方の山に関しては、選定の俎上に乗せては見たが物足りなかったというニュアンスが、文章からにじみ出ている。
北海道:ウペペサンケ、ニペソツ、石狩岳、ペテガリ、芦別岳、駒ヶ岳、樽前山
東北:秋田駒ヶ岳、栗駒山、森吉山、姫神山、船形山
上信越:女峰山、仙ノ倉山、黒姫山、飯縄山、守門山、荒沢岳、白砂山、鳥甲山、岩菅山
日本アルプス:雪倉岳、奥大日岳、針ノ木岳、蓮華岳、燕岳、大天井岳、霞沢岳、有明山、餓鬼岳、毛勝岳、大無限山、笊ヶ岳、七面山
北陸:笈ヶ岳(おいずるがたけ)、大笠山
関西:鈴鹿山(御在所岳、藤原岳)、比良山
中国:蒜山、三瓶山、氷ノ山
九州:由布山、市房山、桜島山

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