嵐と火祭り

画像 京都の名のあるお祭りは、断じて日取りの変更を行わない。カレンダーの並びを見て、「土日だからこの日開催な」なんてことはしない。毎年10月22日にやると言ったらやるのである。だから時代祭の夜に鞍馬の火祭りがあるということも起こるし、台風だろうがなんだろうが、とりあえず火祭りはやるということも起こり得るのである。

 そんなわけで10月22日。鞍馬の火祭りに対し前々から興味はあれど、時代祭を見ようという気はなかったので、15時前に名古屋を出発して京都を目指した。鞍馬の火祭りは夜祭なのでそんなに急ぐ必要もないだろうと思い、のぞみではなくこだまで移動。もう少し早く出発していれば在来線でも間に合うくらいのタイミングだったけれど、紀勢線や近鉄線など、南寄りの紀伊半島を走る列車はすでに運休の情報が伝わっており、こんな時一番頼りになるのは新幹線だろうと思った。帰りは…。まあ、名神高速バスが走っているだろう。台風は今夜のうちに東日本に抜ける予報となっている。逆に言えば、祭りのタイミングが台風接近のタイミングと重なるのだけれど。

 実は今回の京都行きは、京都喰種のタイミングと一致している。まずは寺町通のとらのあなで職種の最新刊を手に入れておこうと思い立ち寄ったのだが、なんと売切れであるとのこと。ただ、京都中心部でコミックを売っている書店自体が限られ、あっても閉店時間が早い中で、条件的に折り合った同店で買い始めるようになったというだけのものなのだ。まだ日の高い時間帯の今回、とらのあなにこだわる理由は何もないので、BAL地下の丸善でフツーに購入。とらのあなで買うと特典がついてくることが多いのだけれど、正直もらったからどうしているというわけでもないし。ついでに、この間買った「時刻表2万キロ」の姉妹編とも言える「最長片道切符の旅」を購入した。

 さて。問題はここからである。三条駅から出町柳駅に移動し、さらに叡山電鉄に乗り換え。とにかくまずは鞍馬まで行ってみる。どこまでそこに踏みとどまるかは、現地で判断だ。予想はされていたことだが、台風により電車が止まる可能性があり、要するにそうなっても責任は取れないニュアンスの掲示が貼り出されている。遅い時間帯なら電車が止まることもあるかもしれないが、触りを見るだけなら何とか戻ってこれるだろう。そう考えて鞍馬行きの列車に乗る。

 たぶん、例年のこの時間帯なら大変な混雑に見舞われることになると思われる鞍馬行きだが、車内には全然そんな様子がない。さすがに座席シートは出発を前にして全て埋まったが、かつて経験したような満員電車状態でないのが不安になってくる。そして、車内で飛び交う言葉が日本語でないのも頼りない。どうも今回は中国人が多いようだが、韓国語らしき言葉も聞こえてくる。かつて悪天の中央アルプスに対して蛮勇を奮い、玉砕した韓国人パーティーがいたが、なんだか中国人や韓国人は命を捨てるような無謀に走ることも少なくないようなイメージがある。そして、そんな一団の中に身を投じている自分が、甚だ無謀な人間のような気がしてくる。

 それなりに風は出てきている。すでに日が暮れているので外の様子は分からないが、駅でドアが開くたびに、外から雨が吹きこんで来る。鞍馬は当然にして山間地である。市原駅を過ぎた辺りから電車は谷あいに進んでいくが、いよいよ風は強まってきているような気がする。不安は募っていくが、どうにか鞍馬駅まで行き着くことはできた。

 鞍馬駅のさほど大きくない駅舎には、多くの人が集まっていた。早期決着を試みた人たちが、18時からの祭り本番を前にして撤退を開始したのだろうか。どうしても自分の行動に自信が持てない中、鞍馬寺の方に歩いていく。

画像 厳密には、鞍馬の火祭りといわれるものは、寺に向かう途中にある由岐神社の祭礼である。それなりに高いところにあるので、多少は山道を登らなければならないが、強風が吹き始めている中だ。もちろん横殴りのような雨も降っているので条件は最悪である。だが、門前の様子を見ていて何となく分かった。鞍馬駅にいた人たちはこれから鞍馬を引き払おうという人ではなく、雨宿りするのに適当な場所がないので駅舎内に避難しているだけなのだ。雨に濡れた山道は、足元が悪いのもさることながら、意外に多くの人で溢れている。雨具といっても折りたたみの小さな傘しか持参していない中で登るには状況が悪すぎる。

画像 いろいろな条件、主に悪い材料ばかりだけれど、それらを総合的に考慮して、今回は涙を呑み、さっさと引き返すことにした。18時に前後して出町柳を目指す電車の中はガランとしている。今年の火祭り見物の客はみんな根性がある。願わくはその根性が蛮勇とならないことだが、こちらは火祭り半分、明日の嵯峨野観光半分で来ているから無理押しはやめるべきなのだと自分に言い聞かせた。

 飯はいつものパターン。が、いつも混み合っている三条の餃子の王将も、今日は空席が目立つ。もともと、金・土の夜が一番混み合い、日曜はそれより落ち着く気のある店だけれど、今日はそれ以上に人が少ない。すでに分かりきっているはずのことだが、嵐の夜なのだなあというのを再認識させられる。店を出、やはりいつものねぐらを目指して鴨川を渡る。普段は滔々と流れる鴨川も、今夜は茶色の凶暴な奔流と化していた。

つづく

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