白馬研

 今年の山界隈は、もしかすると天候に恵まれていないのかもしれない。梅雨明けは早かったが、梅雨が明けるや異常高温の日々が始まり、全く低山向きの気候でなくなった。高山の様子は定かではないが、高山に向けた足慣らしを低山でするのにも難儀する始末。他の人はうまくやっているのかもしれないが、誰あろう私自身が調整不足のまま高山シーズンに突入することになりそうである。せめて後一度、御在所か伊吹程度の山には登っておきたかったのだが、今度の週末は台風が来追加予定いうので諦めた。諦めた結果、私は京都駅の八条口に立っていた。

画像 世界に冠たる観光都市京都の玄関口としてよく知られているのは、烏丸口である。目の前に市内各所に向かうバスの群れが並ぶバスターミナルがあり、視線上方に京都タワーがある。八条口はそれとは反対側の出入り口である。新幹線側の出入口と言っても良い。一体全体、どうしてこうも新幹線側の駅出入口に裏口感が付いて回るのか、不思議ですらあるのだが、さすがに京都クラスともなると地方都市の駅前程度の格は備えており、こちらから発着するバスもある。ウィラー何某とかのお安いバスや、豊鉄バスの京都線なんかもこちらのバス停を使っているようだが、我らがアルピコ交通のバスもこちらを使っていると言うので下見に来た。なるほど、G3という毒ガスみたいな名前のバス停がアルピコにあてがわれているようだ。目の前にはなか卯があるが、なんかあまりにも地味である。バスの発車予定時刻は23:45と言う遅い時間帯。いったいどうやって時間を潰したらええのねん。

 などと嘆いてみても始まらないので、気を取り直して一週間後に迫った白馬登山に向けコースの研究を行ってみる。今回採用したコースは栂池高原側から入山し、白馬大池、小蓮華山、白馬岳と登り、白馬大雪渓を猿倉に下るルートである。白馬岳の場合、一般には白馬大雪渓を登り詰める登山者が多いと言われる。白馬岳のピークを目指すには、それが最短ルートとなるためである。私の場合、ドラマ「坂の上の雲」で雷鳥坂から小蓮華山に向かう稜線の映像が使われていたのに感銘を受け、小蓮華山に登りたいと思い立ったのがそもそもこの山行の動機となっているので、雷鳥坂から小蓮華が核心であり、白馬岳は添え物と言うことになる。ただ、小蓮華周辺には泊まるところがない。小蓮華に行って日帰りすることも不可能ではなさそうだが、せっかくだから白馬岳にも行こうという考えだ。ちなみに小蓮華山は新潟県最高峰で、対になる大蓮華山とは他ならぬ白馬岳のことを意味するのだそうだが、今では白馬岳の名が前面に立つようになったようである。

 登山の開始地点となる栂池自然園までは、ゴンドラとロープウェイを使って登る。同じ後立山の唐松岳に登った時と同じような方法で高度を稼ぎ、標高1800m超のところまで進む。白馬岳の標高は3000mに満たない程度なので、単純計算でその高度差は1200m程度と言うことになるが、累積標高で言うと1500mほどになるようだ。正確な歩行距離は定かではないが、自分で雑に測ってみた限りでは、15㎞もない。かつて私を追い詰めた山行、扇沢から冷池山荘(1200m/7km、歩行時間4時間)を上回るにしても、上高地から槍ヶ岳山荘(1500m/18km、歩行時間9時間)に比べれば相対的に楽な山行であることは間違いない(楽な山行とは言っていない)。蝶ヶ岳強と言ったところか。歩行時間はコースタイムで7時間ほどなので、これも未知の領域ではない。槍基準で言うと、穂先が大きく眼前に姿を現した当たりがゴールと言うことになる。歩行時間だけで言うと、播隆窟にすら至っていない。

 コース各区間の概況に注目する。最初の難所になると思われるのが乗鞍岳。傾斜の急な岩場が続くようだが、ここも雪渓が残る箇所なのだという。当然に軽アイゼンは持っていくが、できれば使わずに済ませたいところである。使うなら、そんなに経験のないアイゼン歩行に慣れておきたい。次の難所は、他でもない雷鳥坂になると思われる。事実上、後立山の主稜線上に上がった後の道と言うことになると思うが、だらだらとした登りが続くので楽ではなさそうだ。最後、違う意味で警戒が必要となりそうなのは小蓮華山から白馬岳までの区間で、コースタイムで2時間ほどの間、小屋も何もない。あまり遅い時間帯の歩行とならぬよう、注意が必要となりそうだ。なお、このルートを踏む場合、白馬岳の頂に立った後、白馬山荘に向かうことになる。

 今回のコースの場合、下りも油断ならない。白馬岳の名所として喧伝される大雪渓ではあるが、実はなかなかに怖いところだという。一番の危険は落石で、もともと脆い地質らしい雪渓上部から、落石は音もなく雪渓上を転がり落ちてくるという。毎年落石に絡む事故は発生しており、死者数で言うと近年では年間一人強くらいは死んでいることになる計算だという。そのため、雪渓通過時は雪渓上部に注意を向けることが重要だとされるが、今回私は雪渓上部を背負いながら下ることになるので、その点には注意が必要だ。もっとも、雪渓を下りに使うことは不利があるばかりではなく、登りに使用する場合に比べて危険地帯を抜けるのに要する時間が短くて済むので、トータルの危険度はどっこいどこいと言ったところが大方の見方らしい。なお、雪渓の下には氷のように冷たい水が流れており、痩せた雪渓を踏み抜いて下層に落ちたりすると命にも関わるという。踏み抜きの危険は8月も中旬以降高まると言うが、油断は禁物と言ったところだろうか。特にここ2~3年は、薄くなりすぎた雪渓の厚みが回復しきっていないというような見立てもあるようだ。

 などと剣呑な話を並べてみはしたが、白馬山荘は良い意味でおかしく、レストランがあってケーキを食べたりもできるそうなので、剱岳なんかを見ながらケーキを食べることを夢想しつつ、頑張れるところまで頑張ってみたい。

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