Winterreise of Kyoto(前編)

 町中至る所寺だらけのイメージがある京都だが、意外に行く先々で仏像を拝観できるというような環境にはない気がする。そういうのはむしろ奈良のカラーである。思うに奈良の仏像群は、造られてから千年以上が経過し、一個のお寺の宝という次元を超越して国家の財産レベルまで上り詰めてしまっているので、秘仏として囲い込むのではなく、広く世間に公開している感があるのだが、京都の仏像はまだ個々のお寺の深奥に安置される段階にあるのだと思う。そのため数あるお寺で公開されるもの、卑近な言い方をすれば観光の目玉になっているものは、庭園や、襖絵その他の屋内装飾品が主である。

 仏像は、当然宗教施設であるお寺を象徴するものである。ただ、特に京都のお寺は、諸大名が上洛した際の宿所としての役割を果たしていたので、庭だとか室内装飾についても趣向が凝らされることになった。さしずめ、お寺の中でも世俗に近い部分ということになるのかもしれない。京の冬の旅の旅は、秘仏の類に触れる限られた機会ではあるのだが、最近は何となく、王道を外して庭や障壁画の方に重きを置いているような気もする。この冬のメインテーマも、狩野派などの絵画が選ばれているらしい。

 そんな中、私が今回の的に選んだの場所は七カ所。転法輪寺。大徳寺本坊、本法寺、善想寺。建仁寺の塔頭である正伝永源院と霊源院、そして智積院。これらを1泊2日で回る計画を立てた。京都市内の各地に分散していること、さらに京の冬の旅の特別拝観の対象となっている施設は開くのが遅く閉まるのが早いので全部回れるかどうかは怪しいが、とにかく行ってみることにした。ただ、時間に余裕がないことはわかっていた上で、京都に着いてから野暮用を済ませていたらはじめの一歩となる転法輪寺に到着した時にはすでに13時を過ぎていた。

画像 転法輪寺は、有名な御室仁和寺の、隣と言って良いような場所にある。転法輪寺自身は決して有名なお寺というわけではなく、少なくとも観光ガイドなどで喧伝されるタイプのお寺ではないが、街歩き地図の類を見ていると、名前はしっかり表記されていることが多い。こちらで今回公開されているのは、御室大仏と裸の阿弥陀如来像だ。前者は、京都に現存する最大級の仏像だということで、時代は大分降るが、江戸時代に桜町天皇追福のために造られたものとされている。

画像 そして阿弥陀如来像の方は、一般に裸であることが珍しいのだそうだ。京都仏像界のビッグネームに比べると押し出しの弱さはあるかもしれないが、今回の特別公開の中では珍しく、正統派の仏像公開なので、まずはここから手を付けた。御室大仏。大きい。奈良の大仏や鎌倉の大仏のようなことはないけれど、確かにこれまで京都で見てきた仏像の中ではかなり大きな部類に入ると思う。桜町天皇にちなむものなので、桜町帝が生前使っていた手鏡が光背の部分に取り付けられている。ありがたいことに(?)ここは撮影自由なのだそうで、お言葉に甘えて撮り放題に撮りまくることにする。

 次に、大徳寺を目指す。普通に行けば京福電車とバスを乗り継ぐ感じになるのだろうか。しかし、距離のわりに乗り継ぎ待ちが長そうだし、そこまで効率の良い移動方法であるとも思えない。妙心寺駅の片隅に腰掛け、京都駅で買ってきた進々堂のアンパンをぱくつきながら作戦を考える。上品な和菓子のような味わいのパンで、ともすれば意識がそちらに向きそうになるが、何となく、大徳寺まで歩くことにした。

 線路の南側をたどり、まずは北野白梅町を目指す。そんなに広くはない道路だが、妙心寺の裏通りになっている関係もあってか、バス通りになっており、意外と大型車も通る。観光客が歩く通りという感じではなく、そのせいなのか、道沿いには近在の学校と地域住民の軋轢を物語るようなどぎつい掲示物が貼られていたりする。新聞記事のコピーをパウチしたもののようだが、要するに学校所有の私道を閉鎖したことに対し、地元が反発したという内容にしか読めない。行きずりの旅行者目線だと、私有地の処分についてここまで干渉していくのは地域エゴにしか見えず、地元への心証が悪くなるのだが、京都には意外とこの種の掲示が多い気がする。地縁が複雑に絡み合う土地柄だからとするのは安直か。

画像 その後、大将軍、北野天満宮と辿る。途中で御土居の断片を見物したりしながら歩くも、思ったより遠い。まず船岡山の裾にとりつくまでに結構な時間を要したが、そこから大徳寺までも意外に距離がある。結局、大徳寺にたどり着いたのは15時を回ったころのこと。

画像 京の冬の旅では、五山に代表される大寺院の塔頭をばら売りすることも珍しくないのだが、今回ここ大徳寺は本坊がノミネートされている。そのため、小さい塔頭寺院の多い妙心寺などに比べれば、割と大きなお寺を見せてくれている感はある。ただ惜しむらくは、内部の撮影が禁じられていることで、このブログでも写真が使えない。公開されていたのは方丈庭園や国宝の唐門、そして狩野探幽の障壁画である。一応、この冬のメインテーマは絵画らしいというのは先に触れたが、どうしても暗い室内にあるという不利に加え、なかなか間近にまで寄ってみることができないので、月並みだが絵より庭が印象に残った。

 そして外に出て時計を見る。時刻は15時半を過ぎていた。次に目指したいのは善想寺なのだけれど、ここ大徳寺は交通の便利な場所にあるとは言いにくい。鉄道網までは距離があるので、最短手での移動となると、バスかタクシー頼みである。善想寺も同様で、強いて言うなら大宮の駅が近いかなといった程度なのだが、とにかく大徳寺から善想寺まで移動する際の第一選択となるのはバスを乗り継ぐ方法である。そして、この企画で特別公開されている施設の拝観受付は16時で終わってしまうので、ここから移動を開始して定刻までに善想寺にたどり着くのはかなり厳しい。やむを得ず、善想寺をあきらめる。諦めてから気付いたのだが、「毎週日曜日10:00~13:00は拝観休止」とある。要するに、日曜日は13時から16時半までしか開いていないという意味になり、土曜の今日中に決着できなかった善想寺は、今回の旅で訪ねる機会が失われたことになる。

 それも口惜しいのだが、16時を過ぎたタイミングで行き先がなくなってしまっても、夜まで時間をつぶす方法がないのにも困ってしまう。仕方ないので、北大路駅まで歩いて時間を稼ぐ。思えば、御室仁和寺の前からさっさと電車やバスを乗り継いで大徳寺までくればこうはならなかったような気もするが、今度は逆に効率よく移動してはならないとはなんという皮肉だろうか。

 北大路駅からは国際会館駅に向かう。何があるというわけでもない。国際会館駅は、地下鉄烏丸線の北端に位置する駅で、いわゆる京都の街中からは遠ざかる方向に向かうことになる。そこから適当なバス路線に乗って町中を目指すことでうまく時間がつぶれないかと考えた。最終的には、宝ヶ池や北白川、岡崎を経由して三条京阪に向かう系統に乗った。ほどほどに京都の情緒を味わいつつ、時間もつぶしつつ、良い感じのタイミングで三条に着けた。見ると、高山彦九郎皇居望拝之像にカイオーガが発生していたので捕獲。さらに、錦天満宮の方にもカイオーガの気配を感じたので捕まえに行き、ちょうど良い時間になった。後は王将で夕食を食べ、ルーマプラザでブラタモリを見てロウリューサウナを体感し、京の夜は更けていった。

つづく

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