Winterreise of Kyoto(後編)

 夜というか夕方が早いのも京の冬の旅の困ったところではあるけれど、朝が遅いのも有り難くはない。翌日は、ルーマプラザからは至近のところにある建仁寺の塔頭を二カ所攻略するところから始めるつもりでいたのだが、変に朝早くから目が覚め、それなりに早い時間帯から行動を開始してしまったため、またしても時間のつぶし方に苦労した。意味もなく寺町の方まで行ったりした後、もう一度建仁寺まで引き返す。

画像 正伝永源院は、織田信長の弟である信益こと織田有楽斎にゆかりのお寺で、現在の建仁寺の境内地の北隣にある。小さなお寺だが、境内には有楽斎や細川家の墓所もあるというので、そちらに関心をもって行くことにした。一応、京の冬の旅における目玉となるのは「蓮鷺(れんろ)図」や「織田有楽斎画像」となるらしいが、私が興味を持ったのは専ら後者の方だ。なるほど、いつか目にしたことのある法体の人物の画像が展示されている。有楽斎は、戦国武将としては特にメジャーな人物とは言えないが、それでも時折目にする肖像のオリジナルを間近で目にすると厳粛な気持ちになってくる。ちなみに、院内には有楽斎が建てた国宝茶室「如庵(じょあん)」のレプリカが存在しており、これも外観を見学することができたが、よくよく考えればこちらのオリジナルは犬山城の近くにあるので、どう考えても本物の国宝を見に行った方が早いことに気づき、ちょっと興が覚めた。

画像 さらにその足で、今度は建仁寺の南側に位置する霊源院へ。ここも建仁寺の塔頭の一つで、単独で大寺院を形成しているわけではないのだが、今川義元にゆかりの寺であるということで足を運ぶことにした。今日の序盤戦は武将染ということになる。義元は長男ではなかったので、幼くして仏門に入れられ、よく知られる太原雪斎に師事した。この雪斎が、建仁寺で修業を積んでいた縁から、その教えを受けた義元もまた、建仁寺で一時を過ごしたのだという。ここでもやっぱり、パンフレットなどに使われる写真では狩野山楽筆の「布袋像」の存在感が強いのだが、駿河の領主として立ったばかりの若き日の義元の書状や、建仁寺に対しても高圧的な姿勢で臨んだとされる織田信長の書状も公開されており、これらもまた興味深い。

 とにかく今日は、時間が許す限りあちこちを回るつもりでいたが、現実的問題として14時頃には京都を離れたい。そうすると、智積院には行けるとして、もう一か所どこかに行けるかどうかといったところになりそうだ。建仁寺から智積院まで歩けない距離ではないが、時間短縮を狙ってバスで移動。過去にその名を聞いたこと程度はある智積院は、三十三間堂や京都国立博物館の近くのお寺だった。あまり意識することもなく、その前を通ったことがある。

 実は智積院を取らず洛中方向に引き返す選択肢もあったのだが、智積院の特別公開は2月いっぱいで終了する予定であるとのことなので、優先順位を上げることにした。目玉となるものはいくつかあるが、冬の旅のパンフではキャッチ―さを優先してか、堂本印象の「婦女喫茶図」の写真が使われている。今回の特別公開の中では異端とも言え、モチーフこそ野点に求められているが、戦後に描かれた作品なので、絵の中の女性の一人は洋装だし、全体的に西洋画風である。

 ちなみに、堂本印象の障壁画が使われている宸殿は、真言宗智山派のお偉いさんが集まるときに使われる部屋なのだそうで、当然平時は非公開である。一般に智積院の見どころと言えば国宝の障壁画が名高く、こちらは長谷川等伯一門の手になるものだ。この旅ですでに何度か目にしてきた狩野派とは同時代の画家なので、大きくとらえれば使われている表現技法のようなものは似通っているのだけれど、上洛後、狩野派の門を叩いた等伯も、彼が持つ生の部分と狩野派の作風がなじまなかったと見え、ほどなく一門から離れたのだという。そういう解説を加えられると、収蔵庫に展示された国宝群は、主張の強い作品が多いような気もしてくる。

画像 なお、今回の冬の旅でも利休好みの庭と言われる庭園が見学可能だが、現在は水質調査か何かを実施している最中で、池の水全部抜くみたいな状態になっていた。何となく締まらないが、例によってオリジナルの障壁画類の撮影はできないので、庭とレプリカ障壁画の写真だけ撮ってきた。

 やや駆け足で智積院を出たものの、時間は12時を回っている。余裕があれば今出川の方にある本法寺も狙おうと思っていたが、その時間はなさそうだ。代わりに、前々からちょっと気になっていた店に行ってみることにする。三条河原町のアーケードにあるその名も京都紅茶専門店という、紅茶の店。まさにうなぎの寝床と呼ぶにふさわしい、間口が狭く奥行きの深い店なので、一組二組程度の客がいるだけで何となく入って行きづらくなるような店なのだけれど、ここに一度行ってみたかった。調べてみると東西は河原町通から烏丸通まで、南北は御池通から四条通までの間の、行ってみれば京都市内最大の繁華街地域で四店舗ほど展開しているようだったので、それらのどこかでちょっと紅茶でも物色してみるのも良いかという気になった。

 ちょうど昼時だということもあってか、店内は比較的空いている。何となく陳列棚を眺めていると、店のお姉さんがアールグレイとマスカットフレーバーのお茶を試飲させてくれた。あらおいしい。興味本位で入った店ではあったけれど、わりとすんなり商品を買って帰ろうという気になり、無事、単なる冷やかしで終わることなく店を後にした。

 さて、今回の旅で取り残しとなってしまったのは、「泥足地蔵」の善想寺と、「唐獅子の障壁画」の本法寺の二カ所である。的が分散してしまった今回と違い、もう一度取りに行くのであれば比較的近い範囲に固まっているので攻めやすいとは言える。もっとも、一番想定しやすい日曜日の京都旅と善想寺の相性が極めて悪いので、狙うなら土曜の旅ということになるし、土曜京都となると、いかに冬の旅の期間が3月中までとはいえ、18きっぷ旅では狙いにくくもなる。京都旅くらいなら比較的安く上がるので、無理に18きっぷの旅にする必要はないのだが、さてどうしたものか。京都駅で、今回の旅のスタンプラリーの戦利品であるクリアファイルをもらいつつ、ちょっとばかり頭を悩ませたのだった。

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