8年目の春に・その5

 昨日は、ぐっすりとは眠れない夜行バスでの旅が終わるや否や、一日に渡る移動を続けた。今日は今日で、朝一番から動き出している。当然、眠い。ようやく走り出した津軽線の窓の向こうに見える風景は、目を見張るほどの絶景というわけではない。まさに牧歌的と呼ぶにふさわしい、田舎町のそれだ。まどろむような光景が続く。昨夜の久慈は凍えるように寒かったが、意外にも今日は気温が上がっているらしく、うたたねできたら実に気持ちよさそうな陽気である。以前の18きっぷ旅なら、終着駅まで乗って問題ないような区間なら開き直って眠ることができたのだが、それができないのが駅取り旅の恐ろしいところである。

 睡魔と戦いながら、途中の蟹田駅で三厩行きに乗り換える。意外に乗客は多く、車内がガラガラになるということはない。純粋な地元客という雰囲気の人は数えるほどしかおらず、鉄道使いの気をまとった乗客も多いが、子供だてらに鉄道使いと思われる幼児を連れた両親とか、ちょっと変わった構成のグループもちらほらといる。遠征してきた感じではなく、地元青森でも、三厩行き列車はちょっとした見ものの扱いなのかもしれない。意外と言えば意外なのだが、ひたすら僻地に向かうかのように見えるこの路線沿線でも、民家が途絶える区間はそんなに多くない。新幹線駅である奥津軽いまべつ駅周辺(在来線の駅としては津軽二股駅)近辺が山間部となっており、最も民家がまばらになっている感じだ。皮肉なことに、民家が少ないからこそ新たに新幹線の駅を作れたということなのだろう。ただ、それにしたってこんなところに新幹線の駅がいるのだろうか。北海道新幹線の車中からちょっと眺めただけの当駅の簡素な風景が思い出された。

画像 青森駅を出てから1時間半近く、12時半間際に三厩駅に到着。掘立小屋みたいな駅舎があるだけの駅を想像していたのに、まがりなりにも終着駅だからか、想像以上にちゃんとした新しい駅舎がある。冬場の寒さが厳しいこともあって、あまり簡素な駅ではまずいという判断もあるのかもしれないが、駅舎正面にはちょっと立派な看板が掲げられていて青森県と北海道南端部の地図とともに、どこか誇らしげにこんなことが書かれていた。「津軽半島最北端の駅 三厩」。さらに言えば「津軽国定公園 竜飛」とも書かれており、金色のプレートには「東北の駅百選選定駅」とも書かれている。ここから有名な竜飛岬に向かうバスが出ており、私が乗った列車にも接続しているようだったので、観光需要はそれなりにある駅だということか。余談だがここ三厩から、津軽鉄道線の終着駅津軽中里駅に向かう路線バスも走っているようで、直感的に受ける印象以上に他地域との結びつきは強いのかもしれない。なお、津軽鉄道には明日乗る予定である。

 三厩駅から、またしても青森駅まで引き返す。今日の旅は、この行って帰るパターンが多いのが特徴なのかもしれない。青森駅から、今度は奥羽本線に乗り換え。ちょっと時間ができそうだったので駅前の帆立小屋で海鮮でも食べていこうかと思っていたのだけれど、比較的遅い時間帯に朝食?としてそばを食べたのが障ったのか、ここからそれなりに値の張りそうな昼食を食べようという気にもならず、これは何となく計画倒れに終わった。代わりにリンゴジュースしか売っていない自販機でリンゴジュースを買った。違いの分かる青森県民向けの商品らしく、ぱっと見はリンゴジュースだけを何十本も詰め込んだ自販機にしか見えないのだけれど、よくよく見ると「ふじ」「王林」「つがる」とかいった具合に、リンゴの品種が違うらしい。物は試しで、唯一聞いたことのなかった品種「きおう」を買ってみたが、思った以上にリンゴジュースだった。よくわからないのは、そんな自販機の中に「青森りんご」とだけ銘打たれた商品が並んでいたことだった。他のジュースも全部青森りんごのジュースのはずなのに。そして、王林は王林ちゃん(アイドル)の躍進がなければ商品化されなかったのではないかと邪推も働く。

 青森駅から、今度は弘前駅へと移動する。青森と弘前、どちらが県内で優位を保っているのかは定かではないが、弘前には弘南鉄道という私鉄が存在しており、弘前市内を起点にして二路線が周辺市町との間をつないでいる。このうち、大鰐線の方はほぼ奥羽本線と並行しているので乗る意義が乏しく、アイテムで足りない分は回収できてしまうので、今回はその方針で行くことにする。もう一方の黒石との間を結ぶ弘南線の方は、例によってレーダーで力業で全回収してしまうことはできそうだったが、話のタネに乗ってみるくらいの時間的余裕はあるので乗ってみることにした。

 弘南鉄道の弘前駅はJRの駅に隣接して建っている。ただ、ホーム同士がつながっていて乗り換え改札が存在しているというようなものではなく、一度駅の外に出てもう一度入りなおさなければならない構造になっていた。改札は、列車が出発する一定時間前からでないと始まらない扱いになっているようなので、呆けたように券売機の前あたりに屯していた。改札のところに発光するリンゴの実がディスプレイされており、ほほえましい。後で知ったのだけれど、このリンゴ、「『備え』と『いやし』が一緒になった、新しい形の防災ライト『APPLE LIGHT(アップルライト)』」として数量限定で販売されているものらしかった。値段が手ごろならお土産代わりに買って帰ったかもしれないが、結構ちゃんとした素材などを使っているのか一個当たり3000円程度するようだったので購入は見送った。それにしても、青森県というとリンゴの産地として有名だが、特に弘前周辺はリンゴ熱が高いらしい。

画像 弘南線は、弘前‐黒石間の16.8㎞を13の駅で結ぶ短い路線である。いかにも地域密着型のローカル線らしく、○○高校前という名の駅がやけに多いのと、「バルーンさが」並みの珍駅名「田んぼアート」駅が存在するのが一つの特徴なのかもしれない。ただ、田んぼアートはその名の通りに稲が田んぼに青々と茂る夏の時期しか列車が止まらない臨時駅の扱いなので、見渡す限りの田んぼに白く雪が積もる春まだ来のこの時期は、無情にも通過されてしまう。逆にこういう景観が広がっているのならと、山師の根性を見せて、この地域の魂の山・岩木山が積雪の田園地帯の向こうにそばだつ姿を撮影してやろうと思ったのだが、基本的には西方向、つまり逆光となる方角に山を見る形になるのでうまくいかなかった。

画像 約30分かけて、黒石駅に到着。三厩駅で予想を裏切られたのとは対照的に、一応黒石市の玄関口と思われる駅なのに、やけにレトロなムードを漂わせる駅である。改札を出たとき、隣接してちょっとした駅ビル程度のものがあるのかに見えたが、実際にはコープ黒石店の建物にへばりつくようにして年季物の駅舎が建っている感じだった。建物も年季が入っているが、特に昭和レトロを感じさせるのは壁面に張り付いた「黒石駅」のプレートのフォントのせいなのかもしれない。この線も盲腸線なので、ここからは再度同じ経路を逆にたどって弘前まで引き返さざるを得ない。ここ黒石駅でも、特にすることはないのだが、20分ほどの待ち時間が発生するので、駅周辺をうろうろしてみる。よほど小さな駅でもない限り、たいてい駅前には観光案内の看板というのがあって、黒石駅前にもそういうのがあった。そこで紹介されている内容を見る限り、こみせ通りとか味のある街角は存在しているようだし、黒石もねぷたで有名な街だったはずだ。魅力のある街ということはできるのかもしれない。今日は鉄道に乗ること自体が目的の日となっているが、ロケハンとしての意味を見いだせたような気はする。ちなみに、黒石も焼きそばを名物としているようだが、焼きそばの町黒石を謳う看板に「よぐ来たねし~」と書いてあるのを見て、ハーサカみたいだと思った。

 今日3度目の折り返しを経て、弘前駅に戻る。今日はこの後、奥羽本線を大館駅まで進み、そこからレーダーを使って鷹ノ巣駅との間にある駅を取る。再び弘前駅を出る頃にはすでに日も落ちかけており、先に進むうちに真っ暗になってしまった。さすが本線格といったところで、利用者も多くローカル線的旅情も乏しく、ひたすら駅を取るためだけの時間がやってくる。弘前‐大舘間は弘南線の大鰐線も並行しているので、普通に連打しているだけでも多くの駅が取れるので作戦も何もあったものではない。

 問題は大館駅での乗り換えである。今日のゴールはつまるところ弘前駅なので、弘前に戻る列車に乗り換える必要があるのだが、時刻表を見ているとその猶予時間は1分しかない。島型のホームで対向列車が待っているとかいうわけでもなければ結構つらい乗り換え時間だが、ネットで調べた限り奥羽本線の上下線乗り換えのためには、こ線橋を渡る必要があることが分かった。とにかく、少しでも階段に近いところに降りられるように、調べられる限りの情報を調べて、大館駅到着を待つ。果たして、乗り変えるべき列車はすでに階段の向こうのホームで待っていた。少しでも先着して、後から来る対向列車を待つ形の方が気楽だったのだが、それを言っても仕方がない。ドアが開くや、下り列車の待つホームに駆け出す。18きっぷで乗っているから問題がないようなものの、列車を降り、改札を出ないまま来た方向に乗り返す行動パターンというのは、どうもキセル臭くて良くない。そこが気になったが、どうにかのるかそるかの1分乗り換えを決め、無事弘前に帰還することができた。失敗したら、次の列車が来るのは大体30分後。待てない時間ではないが、足止めを食わずに済んだのはありがたかった。

 弘前の宿は、十年ほど前に弘前止まりを決めたときに使ったのと同じ、カプセルイン弘前。弘前駅周辺ならチェーン展開しているビジネスホテルも数軒あるが、今回も安さを買うことになった。問題は、弘前駅からちょっと距離があることで、最寄り駅はむしろ弘南鉄道の中央弘前駅ということになる。現存天守十二条の一画を担う弘前城にも近く、古くからの市街の中心部はむしろこちらということなのだろう。弘前駅から十数分ほど歩き、中央弘前駅にチェックインしたところでルートビューンを使って大鰐駅と中央弘前駅を結んで、大鰐線をコンプリート。今日のゲーム内ミッションはこれにて完了である。

 困ったのは夕飯で、宿周辺は盛り場風の雰囲気を出していながら、飲み屋以外の純粋な食べ物屋がほとんど見当たらない。たまにあったとしても、マスターが暇そうにしているのが通りからもわかる、それでいて小洒落た感じのレストランが多く、ちょっと入りづらい。最後は、少し離れたところにあったびっくりドンキーに転がり込んで、どうにか飯問題は解決した。ファミレスとはよく言ったもので、ああいう店は家族連れが安心して食事をできるようにサービスを提供するホスピタリティ精神にあふれているのを感じたが、おっさんの一人客はやはり何となく場違い感があるのを痛感した。それにしても、前回の弘前泊まりの時は、いったいどこで何を食べたのだろう。謎である。

つづく

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  • 8年目の春に・その4

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