紅葉を見る会(前編)

 桜を見る会を巡り、国会が大変喧しいことになっているようだ。何のひねりもない名前だけれど、意外と素朴な風雅さがあって良いものだと思う。時期が時期ならそのまま花見にでも出かけたくなるような、そんな響きがある。もちろん今は桜の時期ではないが、四季の移ろいを愛でる気持ちを忘れないため、紅葉を見る会に出かけることにした。ちなみに桜を見る会は参加者が多すぎて叩かれているようなので、紅葉を見る会には一人で出かけた。会とは、集める、集まるの意であるという。

 一応、この時期の京都になぜか宿を取れたので、いつものように京都に行くことにしたのだが、京都に入るちょっと手前の、滋賀県大津市に寄り道していく。もとは石山寺と三井寺に立ち寄るつもりでいたのだが、石山寺はまたの機会の楽しみに取っておいて、今回は三井寺に行ってみた。

miidera.jpg 一般によく知られる三井寺の名は、実は通称で、正しくは園城寺(おんじょうじ)という。最澄が開いた比叡山延暦寺の天台宗から分派した宗門の総本山なのだそうである。歴史的に比叡山とは仲が悪く、延暦寺が織田信長による焼き討ちにあった時期には、敵の敵は味方式に信長に接近し、その跡目を継いだ秀吉の時代にも良好な関係を築いていたが、ある時秀吉の勘気に触れたことで廃寺も同然のことになった。それが秀吉の晩年には再興を許され、以後は近世に規模を縮小しつつも、江戸時代初頭の建立された建築物等を多く残すのだそうである。

 ただ、間近にある京都の大寺院ほどよく知られた建物等があるでもなく、格式はあるが観光地としてはやや渋めのところという印象はある。天下に鳴り響く紅葉の名所という評判も聞かないが、それでもこの時期はやはり紅葉する木も多いらしく、1日の始まりに足を運んでみた。境内至る所が真っ赤に紅葉する…というわけではなかったけれど、大津市の中心部を見下ろす高台のあちらこちらに紅や黄に色づいた木々が茂っており、穏やかな琵琶湖を見下ろす京都にはない景観の印象にも助けられ、なかなか味わい深い紅葉狩りとなった。

demachi.jpg 次いで足を運んだのが、京都に移動して一乗寺、修学院界隈。京都の地域を説明する名称として洛東とか洛北とかいった単語が存在するけれど、この地域は洛東にも洛北にも該当しない扱いの、なんとも不思議な場所である。叡山電鉄の駅に八瀬比叡山口というのがあるが、漠然と、八瀬方面というのが一番直感的なのだろうか。京都市内はバス路線も多く、中心部からバスで移動することもできそうな場所ではあるけれど、今回は三井寺の最寄路線が京阪電鉄ということもあったので、三条・出町柳での乗り換えを挟みつつ、叡山電車で移動することにした。

hiei.jpg しかし私はここで、三井寺に寄り道してきたことを後悔することになった。出町柳駅は、紅葉名所を目指そうとする観光客でごった返し、乗客がホームはおろか、改札外の駅敷地からもあふれ出すような始末。入場制限が掛けられ、乗客たちは鞍馬行と八瀬比叡山口行に分けられて列を作っていた。私は何となく、八瀬比叡山口行の列に並んだが、降りる予定の一乗寺駅や修学院駅は列車が二系統に分かれる以前の駅なので、どちらに乗っても同じと言えば同じだったような気もする。まあ、鞍馬に行く客よりは八瀬に行く客の方が少なかろう。そう思うことにしたが、結局はぎゅうぎゅう詰めの列車に揺られた挙句、一乗寺駅で下車。叡山電車虎の子の観光列車・ひえいに乗れたまでは良かったけれど、車中で見えていたのは、近くの客と遠くの客。一乗寺駅から見送るときなってにはじめて、この列車をちゃんと見たような気がする。

 さて、駅名にもなっている一乗寺という寺だが、これは現存しないという。その割に駅名とその元になった地名に受け継がれているのは、このお寺がもともと結構大きく格式のあるお寺だったということの証拠なのかもしれない。現在この界隈は、一乗寺ラーメン街道というそれはそれでなんだかよくわからないもので有名になっている。私自身ある程度意図的にこの地域の観光を京都市内でも後回しにしてきたが、今回はラーメンに目もくれず、周辺観光に向かう。付近には宿泊施設もなく、ラーメン街道などはもともと、京大の学生をはじめ若い住人を当て込んで形成されていったものなのだと思う。観光目的でやってくるにはやや辺鄙な場所である。

 ここで目指すは、まずは八大神社。紅葉の名所というわけではないが、彼の宮本武蔵の一乗寺下り松の決闘で知られる場所である。紅葉狩りの場としては少し北にある曼殊院門跡と赤山禅院。時間に余裕があれば間に詩仙堂や狸谷山不動院に足を運ぼうかと言ったところである。ただ、甘く見ていたのだけれど、この辺りは比叡山のすそ野と言って良いような場所である。駅を出て東に向かい、白川通りを渡った辺りで、かなり明瞭な登り坂になった。厚着してきたのに気温は思ったほどに下がらず、額に汗が浮くようになりながら、とりあえず八大神社に到着。

hachidai.jpg 京都市内の観光地としては無名に近いが、七五三のお参りに来ている人もいて、地元の人からは崇敬を集めているようだ。なお、宮本武蔵がらみだと下り松の古木がガラスケースに入って保存されているのと、大河ドラマの頃に建立されたものと思しき宮本武蔵の銅像があり、ふーんという感じである。考えてみれば、私はそんなに宮本武蔵が好きというわけでもなかった。ただ、「バガボンド」の完結を待ち望んでいる程度である。なお、狸谷山不動院はここからさらに登るうえ、歩きだと結構時間がかかりそうなのでパスした。同様に、詩仙堂も思ったより時間を取られたのでパス。

 次に目指すは、曼殊院門跡である。くねくねと続く細い生活道路を歩いていく。観光客の数が多いのと、道すがらの要所に小さな道標が出ているので、今日に限っては迷子になる心配もなさそうだが、狭い道にタクシーが多いのには閉口する。それがなければ京都市内と思えない田舎びた雰囲気の辻もあるのだが、うっかりしていると通行車両にひかれそうですらある。

manshuin.jpg 曼殊院は名前からして門跡寺院である。どうやら寺格が高いのは間違いなさそうだが、門跡寺院の場合、時の権力者の庇護のもとに建立された規模壮大な寺院というより、比較的小さくまとまった、しかし国宝級の寺宝を遺す歴史ある寺院のイメージがある。ここ曼殊院についてもある程度その傾向が見られ、古今和歌集や黄不動のような至宝を擁すものの、これらは京都国立博物館に行っているという。残念。当地では重文級の建物や障壁画などを見ることができるが、紅葉狩りがメインテーマとなる今回においては、少しタイミングが早かったのか、印象的な紅葉は見られなかった。

sekizan.jpg そして初日の最後に、赤山禅院に移動した。予想外に起伏のあるところを歩くことになったのに加え、荷物が重いせいもあってだいぶ疲れてきた。そんな中向かう赤山禅院は、泰山府君を祭る寺院である。本尊のもの珍しさもあって以前に一度足を運んだこともある。ちなみに都七福神を祭る寺社の一つでもある。過去に一度来たことがあるので、境内の様子は大体わかっているし、そんなに大きくもないのだが、ここの紅葉も色づき始めと言ったところで、紅葉旅の立ち寄り先としては、やっぱり少し当てが外れた感じはする。山手側にあり、いくらかは街中より気温が低そうな気もしたのだが、それほど単純なものではないらしい。

 いちおう、ここまで用事を片付けて時刻は14時を少し回った。その後は、京阪の列車で淀屋橋まで行った後、梅田に移動、阪急電車で河原町まで戻ってくるという不毛な行為に時間を費やした。ゆいレールみたいに物理的に駅が生えてきたなら仕方がないのだが、八幡市駅が石清水八幡宮駅とケーブル八幡宮口駅に分離し、梅田駅が3つになったりして未取得の新駅が発生してしまったのが何となく気持ち悪く、1000円ほど使って大阪まで往復したのだった。京都-大阪間の交通費は、思ったよりは安いようである。

つづく

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