山登ってみよう【旧摩耶道から摩耶山】

 いったい、今年の梅雨はどうなってしまったのかと思う。昨年旅した人吉や湯前、いつか歩いた芦北と言った地域が大規模な水害に見舞われたのを皮切りに、この夏あてにしている高山本線までもがすんでのところで飛騨川の濁流に消えそうになるなど、いつまで経っても雨がやまない。とどのつまりは謎の四連休も雨に祟られることになった。こんな状況下で裏銀座を歩くことにならなくてよかったと、そこについては胸をなでおろしたのだけれど、代案の代案として用意していた唐松岳行きもむなしいことになった。幸い、ルートインの人が用意してくれたのが北向きの部屋だったので、大町入りしたその夕方、ちぎれ飛ぶ雲の間に間に鹿島槍と思しき高峰を眺められたのが唯一の慰めとなった。大北(ローカル色の強い地域区分だが、大町とか白馬とかはこのように呼ばれるらしい)の盆地からいきなり立ち上がっているだけあって、大町から見る鹿島槍は見上げるばかりにそそり立っている。ていうか、鹿島槍っていつもガスってるような気がする。

 雨……イッパイ降ッテ……キレイ。山……儚イ……カラ美シイ…。などと言っている場合ではない。まさか奥穂高までに梅雨が明けないことはないと思いたいが、穂高ほどの相手を前にして、ここ最近ろくすっぽ山に登れていないのは間違いなく良くない。ということで、どこかに適当な山がないかと探してみる。一番に考えたのは御在所岳だったが、やはりヒル地帯なのでもう一つ気が進まず、結局六甲まで遠征することにした。かなり遠いのは確かだが、私鉄を乗り継げば、思ったよりは出費が押さえられるので、裏銀座経費で足を延ばした。

 六甲山広しといえども、今回目指すのは摩耶山。以前にも登ったことがある。再訪するほど印象深い山というわけではない。近くに新穂高とかシェール槍とか思わせぶりなピークがあるので、それを絡めることを考えないでもなかったが、天気がパッとしないので、今日はとにかく短期決戦。雨が降り出す昼前までに登り切って、後はさっさと観光モードに切り替える心づもりだ。最近、QBBのベビーチーズに甚くハマっており、これの製造元である六甲バター株式会社の牧場が摩耶山の北方にあるようなので、天使のような酪農企業の牧場ならきっといいところなのだろうと、せっかくの機会に足を運ぶことにした。

 今回たどるのは、摩耶山に至るコースのうち旧摩耶道(もとまやみち)と呼ばれるものだ。前回のトエンティクロスが摩耶周辺のハイキングコースとしてはトップクラスにメジャーどころだったのとは対照的に、きわめて地味なルートである。山と高原地図ではれっきとした登山道として記載されているはいるものの、ヤマケイのエリアガイドでは全く触れられていない地味さ。どうもトエンティクロスの一部区間で土砂崩れが発生しているらしいという情報があること、そもそもトエンティクロス経由の摩耶山行はコース取りが迂遠であることから今回は避けたのだが、ある程度良く登られているらしいハーブ園経由の道はちょっと物足りなさそうなので、いろいろ悩んだ挙句このチョイスになった。

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 退役が決まっているというアーバンライナーの、朝一番早いやつで大阪難波駅まで移動する。予想はしていたがガラガラだ。そこから地下鉄、阪急と乗り継ぐ。やっぱり時節柄と波乱含みの天候、休日早めの時間帯という条件とが相まって、大阪市内に入っても人はそんなに多くない。そして、大阪梅田駅から普通列車で春日野道駅まで移動した。地理不案内のままコース選定したので失敗があったのだが、今回たどった道を歩くのなら、新神戸駅が最寄駅となるのだった。そんなこととはつゆ知らず、特に何ということもない小さな春日野駅に降りた私は、春日野坂と呼ばれているらしい商店街沿いの坂を六甲山の方に向かって歩き出した。あまりにも街中で、全くハイキング感はないが、「山麓リボンの道」と書かれた道標らしきものもあるので、これに沿って歩いていけば登山口にたどり着けるのだろうか。

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 ただ、山麓リボンの道の標をそんなにあてにしなくても、六甲山クラスのメジャー山ともなると、YAMAPから地図をダウンロードしてくることもできる。ひとたび山中に入れば、六甲山の多くの道は踏み跡もしっかりしていると思われるが、市街地を歩く上でも登山口までの道を探すのに便利だ。アプリに頼り切って歩いていたら、半地下みたいな新幹線の駅のほぼ真上を通って、山林へのとりつき部にたどり着いた。旧摩耶道は、どうもこの先のお寺の境内を抜けたところから始まるらしい。

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 魚屋道を歩いたときもそうだったけれど、六甲山エリアではイノシシが幅を利かせているらしい。イノシシ除けのゲートも設置されているので、確実にこれを開閉して、9:58に本格的登山道がスタート。摩耶山までは、3.2㎞とある。1時間強程度で歩ければ良いという皮算用はあるのだが、スタート直後から階段でなかなかの急登を強いられる。そんなに長くないコースのはずだから、疲労が蓄積するより早くゴールできると思いたいが、イノシシに続いて今度はハチ注意の警告まで姿を現し、前途は多難である。

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 何となく歴史のありそうな旧摩耶道だが、どういう出自の道なのかはネットを調べてもはっきりとは出てこなかった。どちらかというと、表舞台から退場した道というニュアンスの記述が多い。一応は六甲のハイキングコースの一つに数えられているものの、ばっちり整備が行き届いているかというと微妙なところだ。急な斜面をトラバースする形で狭い道が付けられているところもあり、他に安全に歩ける道も多い六甲の登山道の中では、初級者向けとは言えなさそうだ。林床はそうでもないが、日向の区間は短距離ながら薮化していたりもする。このくらいの里山道は珍しくもないが、過去三回歩いた六甲山域の道でも、最もシビアで華がないと言わざるを得ないのかもしれない。

 それに正直、思ったより苦戦を強いられてもいる。春日野道駅から摩耶山の山頂まで、登る高さは600mあまりといったところだろうが、結構一気に駆け上るようなコースだ。20分あまり歩いて、青谷道と学校林道の分岐点に到着。どちらに進んでも、最終的に摩耶山の山頂には至るはずだが、地図を見ながら、どちらに進むか思案する。酷暑というわけではないので、消耗を気候のせいばかりにはできない。やはり体が鈍っていると認めるしかないのだろうか。これは、奥穂までにもう一度か二度、近場の山に行くべきだろう。下呂御前?御在所?伊吹?鳳来寺?アクセスが容易な近場の山をいくつか思い浮かべてみる。どれも決め手には欠ける。

 まあ、今日のところはまず摩耶の山上まで上がらなくては。一度はコースタイムが短いらしい青谷道の方に進みかけたものの、あからさまに道が下ってみるのを見て気持ちが萎え、学校林道に進んだ。六甲の主稜線はそんなに遠くにも見えないが、結局学校林道側も大なり小なりアップダウンはあった。コースタイムもこちらの方が若干長いので、トレーニングにはなったのだと思うことにする。ちなみにこの学校林道、きわめて事務的な響きの名前だけれど、やっぱりそのいわれは良くわからない。

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 学校林道の傾向も、下部の旧摩耶道と大差はないが、若干傾斜が緩んだおかげか、ようやく体が温まってきたおかげか、快適に歩けるようになってきた。準備運動なしでいきなり急坂に挑みかかるのは、体への負担が大きいのだろうということにしておく。そう考えると、河童橋から横尾までの長い歩きも、ウォームアップくらいの意味を持たせられるのかもしれない。さらに30分ほどで天狗道に進入。そしてやっぱり、天狗道のいわれは不明。一般的には天狗道というと、堕落した修験者が死後に落ちる魔界とされているが、まさかそういうことではないだろう。この道は、布引ハーブ園の方から伸びているハイキングコースが合流した先にあるので、これまでに比べ格段に楽ちんに歩ける。道中一部、これまでのコースに似ないごつごつした岩場の道があるが、穂高の岩稜のつもりで歩いてみる。まあ、一瞬で終わってしまうので練習にもならない程度のものではあった。

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 そこから30分ほど、緩めの山道をこなして、11:40にいつかの掬星台に到着した。天狗道の途中から雨がぽつりぽつりと来ていたが、滑り込みセーフでゴールすることができた。が、そろそろ傘なしでは歩けなくなりそうだ。掬星台から先、ロープウェイとケーブルカーで山麓まで下りられるのは前回実践した通りだが、今日はそうせず、六甲有馬ロープウェーの方に向かう。天気が安定していれば歩くつもりでいたが、雨は本降りになりつつある。そして、都合よく路線バスが停まっているのに気が付いた。これを使えば、六甲有馬ロープウェイの山上駅まで行けそうだ。ついでに言えば道中にある六甲山牧場の辺りも通ることになりそうだが、悪天候に意欲をそがれ、今日は素通りすることに腹を決めた。バスの車窓から、山上の牧場を駆け回る羊とか、引馬とかが見えた。思っていたより大規模な牧場のようだ。考えてみれば、腰を据えて神戸市内観光をしたこともないので、もっと気候のいいときに観光コースに組み込んでやってくるとよいかもしれないと思う。

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 ちょっとした山上都市の様相を呈する中を走り、20分ほどのバス旅は終わった。ここからさらに、有馬温泉へと下るロープウェーに乗り、温泉で汗を流すつもりでいたのだが、なんと強風のためにロープウェーが運休しているという。今日の天気はここから崩れる一方。しかもかなり荒天になる可能性を含んでいる。待っていても状況が改善するとは思えなかったので、おとなしく神戸市街側に下り、それでもあきらめきれなかったので鉄道で有馬温泉に回り込むことになった。

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