山登ってみよう【ダイヤモンドトレール・屯鶴峯~葛城山・前編】

 久しぶりに、ダイヤモンドトレールに行こうと思った。

 コロナ禍で客足が遠のいた鉄道各社は、利用者を呼び戻すためにフリーパスの類を次々と発売している。注目しているのは西日本以西のJR各社や九州単独の新幹線含む乗り放題パス、一番登場を期待したいのは東日本with東海の同種パスだが、我らが近鉄もこの流れに乗っかり、いつもの「週末フリーパス」の完全上位互換商品「近鉄全線3日間フリーきっぷ」を売り出した。適用範囲が土日含む3日から指定の連続3日に拡大された上、販売価格が4200円から3000円と安くなり、近鉄系の観光施設の割引が付き、エキファミ(近鉄はファミマと組んでいる。JR東日本のニューデイズの役割をファミマが果たしているようなものである)の飲料引換券が付いてくるというぶっ壊れぶり。欲を言えば、関西大手私鉄連合乗り放題きっぷが5000円くらいで売りに出されても買いなのだけれど、近鉄単独3000円でも十分魅力だ。

 近鉄の強みは、京阪奈の近畿三県を自由に行き来できるところにある。そこにうっかり、名古屋線なんてものをくっつけてしまったため、近鉄線は名古屋民の魔手にさらされることになったのだけれど、近鉄の切符を買ってどこに行こうかとなった時に、ダイヤモンドトレールに行こうと思った。これだけは、週末フリーパスの時から何も変わっていないのだけれど、今回のフリーきっぷにも、葛城山ロープウェイ割引券が付いている。これが私の目を引いた。

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 ダイヤモンドトレールは、阪奈境の山地をつなぐ縦走路である。略称はダイトレ。屯鶴峯(どんづるぼう)にはじまり槇尾山に終わるその延長は、およそ45kmにおよぶ。前回歩いたのは、今を去ることもう7年も前の話となる。その頃はまだ、自分の山スタイルをあれやこれやと探っていた頃で、ロングトレイルをたどる旅を志向していなかったこともあって、修験の山にしてダイヤモンドトレールの白眉である葛城山と金剛山を歩いただけだったが、今回は、屯鶴峯から葛城山までつなげてみようと思った。東海自然歩道の旅が、長い長い一本の線として結実しようとしている影響が大きかった。

 行動時間確保のため、フリーきっぷに特急券を買い足し、朝8時半前の南大阪線二上山駅に降り立つ。ここ数日、お腹の調子が良くなかったが、小さな駅ながら二上山駅にはまともなトイレがあったので、どうにか事なきを得た。先日の東海自然歩道以来、歩行中の腹痛が怖い。今日のコース上には、東海自然歩道と同程度にはトイレがあるようなので、これで最悪の事態を回避できれば良いけれど、万が一に備え、道中のコンビニでティッシュを買っていこうという気になった。その程度に、駅周辺には人家や会社などが多い。二上山という駅名は、近くにある同名の山にちなむもので、駅も二上山登山の基地となっているのだけれど、古くから河内と飛鳥を結ぶ交通の要衝だったこともあり、電車の中から見た田舎びた雰囲気に反し、人の営みの気配は色濃い。

 一応の準備を済ませ、8:30スタート。二上山はダイヤモンドトレールの経路上に位置する山の一つで、駅から最短コースで登る登山道も存在はしているのだけれど、私の場合まずは屯鶴峯を目指さなければならない。これがちょっとした回り道になる。歩道があったりなかったりの幹線道路をたどって、大阪府寄りの方向に向かう。道順がわかりづらかったので、事前にgoogleストリートビューで経路を下調べしたのだけれど、その時道沿いにあったはずのセブンイレブンが、実際には閉店していた。飲み物・食べ物は確保してきているのでそちらは問題ないが、ティッシュを買えなかったことに不安が残る。それほどに、山での便意を恐れるようになっている。

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 気がかりではあるが、駅から30分ほど歩いて、屯鶴峯に到着。県道に面した入口には、「奇勝 どんづる峯」とあった。香芝市名義で建てられた看板なので、ここはまだ奈良県内ということになるらしい。現地の看板によれば、屯鶴峯は二上山の火山堆積物が凝灰岩化し、それが隆起浸蝕作用を受けて、現在見られるような姿になった奇勝であるとされている。結構言い回しが難しいのを意訳しているので、正確なニュアンスを伝えられていないかもしれないが、とにかくそのようなことが書かれている。ダイヤモンドトレールの起点であるとはいうものの、その核心部はトレールの本編とは真逆の方向に位置している。気持ちは葛城山の方に逸るが、とりあえずスタートの地もこの目で見ておこうと思った。ストリートビューはじめ各所ですでにその様子を映し出した写真を見てはいるので、ばえる景観を探してあっちへうろうろ、こっちへうろうろ。さほど広くもない屯鶴峯だが、そこを20分ほど徘徊、時間を浪費した。

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 そして9:20。最後に起点石を探しだしたところで、本格的にリスタート。東海自然歩道は東京と大阪のどちらが起点であるかを明確にしておらず、箕面にもそこが終点あるいは始点であることを大々的にうたったオブジェは存在しなかったが、その点ここは、小さいながら起点であることを明確にしている。ただ、ここからいきなり山の中に入って行くわけではなさそうで、実際には県道をなお大阪側に向かって歩いていく必要がある。そしてこの道、このエリアの県境道路としては主要なもののひとつらしく、ひっきりなしに車が通る。歩道と言えるほどの物はない。「山と高原地図」で、ダイヤモンドトレールを歩く場合でも、二上山に直接登るルートが推奨されている所以だが、小さな工場のような建物の向かい、土建屋の土場か何かの隅っこみたいなところからトレールの本編が始まった。

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 トラ柵で細く頼りなく仕切られた道の先は、近所の里山にでも通じるような、あまりぱっとしない印象の山道に通じていた。まあ、見たところ二上山自体が里山程度の山に見えるのは否定できない。それでも少し進むと、道は木段によって整備された坂道に行き着いた。木段があるということはつまり、維持管理が放棄されていないことと同義である。このことのありがたさを、改めて感じる。ただ、コース設定はあまりうまくないかもしれない。小ピークを登ったり下りたりするのを繰り返すのもさることながら、展望もなければ前途も見えない、パッとしない道だ。それでも、黙々と足を運ぶ。土地勘がないので近くの山を比定することもできないが、大阪側に広がる街並みを見れば、それなりに山を歩いている実感もわいてくる。大阪民が心のよりどころとする高層建築・あべのハルカスは見えないけれど、ズムシティ感のある謎の塔は見える。駅取りの旅でも見かけたことがあったが、あれがあるのは富田林辺りの町だったろうか。

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 それにしても、名にし負うダイヤモンドトレールの一部でありながら、全くほかの登山者と出会わない。二上山に登るためコースとしても決してメジャーどころとは言えないのでやむを得ない所か。どうやら道を外しているわけではないらしいことは、要所にある指導標類からもわかるが、ところどころにコースの分岐があったりする。ただ、そう言うところにこそ道標が立っている安心設計がうれしい。一か所だけ、旧ダイトレとかなんとか書かれている略地図を見た時はどう進んだものか悩みもしたが、10分ほど歩いた10:20、二上山の山頂直下に着いた。

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 二上山は、その名からも連想できるように双耳峰となっている。この間登った筑波山同様、雄岳と雌岳という男女になぞらえたかのような名を持つ二つのピークを持つが、これは筑波山と違い、雄岳の方が標高が高い。ただ問題があって、ダイヤモンドトレールの本線は山頂下部を通過こそすれ、どちらの山頂をも踏むことがない。どちらか片方に行くだけにせよ、20~30分程度の寄り道となる。帰りのロープウェイの時間もある。できれば最短コースで葛城山を目指したい気持ちはあったけれど、気持ち近そうにも思える474mの雌岳山頂にだけ立ち寄った。山頂周辺には、いったいどこから集まって来たのかというほどの人がいたが、ダイヤモンドトレールの縦走をやろうとしている風の人は見当たらない。主には、家族連れや老夫婦のハイキングと言った層が多いように思える。

 若干消化試合気味にして、山頂を後にする。ここから先は、ストイックに葛城山を目指そうと思う。二上山の核心を外したコース上には、屯鶴峯にあった起点石と同じ意匠のブロックがあった。「二上山」と現在地点を表すとともに、すでに通り過ぎてきた屯鶴峯、この先に控える竹内峠までの里程が記されている。ただ、御影石か何かの比較的耐久性の高そうな素材で作られている割に、部分部分で文字が消えかけている。前回葛城山に登った時は気にも留めなかったけれど、どうやらこの先もこういったブロックが要所に設置されているものと思われる。石板を拾いながら進む旅。ドラクエ7みたいである。スタート直後、世界には屯鶴峯しかない、みたいな。

つづく

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