山登ってみよう【ダイヤモンドトレール・屯鶴峯~葛城山・後編】

 二上山の前後から、コースの整備状態は目に見えて良くなった。それを象徴するかのように、コース上の樹木には「ダイヤモンドトレイルラン2020 大会開催のご案内」というPRが取り付けられていた。開催日は11月7日(土)。昨日のことだが、そのコースは二上山~金剛山~中葛城山~紀見峠となっている。二上山以前の正規コースは道が狭隘だわ、スタート地点に適した場所がないわで、二上山が事実上のスタート地点みたいにされたのかもしれない。ちなみに、中葛城山というのは、当座目指す(大和)葛城山とは別の山である。紀見峠となるとさらにその先。高野山に行くときに南海鉄道で同名駅を通過することになるが、とにかくずっと先だ。そこまで1日で進むというのは、ランの者の領域という感じがする。まあ、スタートが早く昼の長い時期であれば、歩いて歩けない距離ではなさそうだが、コース上に紀見峠という地名を見つけたのは、次につながる曙光のように思えた。あるのかどうかわからない次回は、金剛山から紀見峠までを繋げるのが無難そうである。金剛山までは前回登っているので、ズルしてロープウェイで登るというのも考えられなくはない。まあそれだと温そうなので、登山口までのアクセスが容易なら登ったって良いのだけれど。

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 しかし、人間というのは身勝手なものだ。道の状態が良くなってくると、今度はコースの単調さが気になってくる。尾根筋を馬鹿正直になぞるようなコース設定となっているためか、アップダウンは小刻みに襲ってくるのだけれど、基本的には同じような林が続き、展望もない。木段も頻出するようになってきたが、妙にまっすぐで長い登りを強いて来るところが多い。我慢して、歩き続ける。幹線道路を横切ったところで、11:05に竹内峠の「石板」を回収。車も行き交うなんてことのない峠道だが、それなりに歴史のあるところらしく、歴史国道竹内街道という看板が、トレールとは別の方向を指し示している。また、「従是東 奈良縣管轄」と刻まれた古い石碑もある。行き過ぎると、林道規格の道となり、それもいつしか土の登山道に変わった。気が付けば、向こうの方からハイカーが歩いてくる。幹線道路と絡んでいることもあって、気軽なハイキングコースとして歩かれているということか。近在の山を一、二座歩こうという時には歩きやすい良い道だろうが、雰囲気は残念ながら少し前と相変わらず。

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 11:43、平石峠通過。山中の、その名の通りの鞍部だけれど、看板類の多い賑やかな印象の場所である。地名自体にはなじみがなく、どの程度まで進めているのか、今一つピンとこないが、歩行時間から推して、そろそろ中間地点と言ったところだろうか。例の「石板」もある。次のチェックポイントとなるのは、岩橋山というところらしい。名前のついたピークには違いないのだろうが、二上山や葛城山のような、それ単体で登られるほどの山ではないのだろうと思った。繰り返すまっすぐな木段。
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 12:25、岩橋山の「石板」を回収。山頂というにはあまりにも地味な場所だが、先客がいた。そのただ一人の先客であるおじいちゃんは、私
がその場にあった看板を眺めていると、どこから歩いてきたのかを聞いてきた。何の気なしに「屯鶴峯から来た」と答えると、甚く驚いたらしい。驚いただけならともかく、しきりに恐ろしいわ~恐ろしいわ~と繰り返している。たぶん大阪弁なのだろうその言葉のニュアンスは、標準語で言う恐ろしいとはまた違ったものを含んでいるのだろうけれど、あまり恐ろしいと言われると、少し傷ついてしまう。

 このおじいちゃん、気になることも言っていた。どうやら今日もこの界隈で何か山歩きの大会が行われているらしい。ここまでのところ、北行するハイカー以外とほぼ出会っていないところを見ると、大会参加者のボリューム層はもうだいぶ先に進んでいると見え、実際おじいちゃんも、大会の運営が落伍者がいないか探しながら葛城山の方に向かっていったという。最後におじいちゃんは、私がどこに向かうのかを聞いてきた。「葛城山まで」と答えたら、やっぱり「恐ろしいわ~」と言った。もしかしてこの老人、私が葛城山の天狗か、役行者が使役した低級な鬼か、とにかく人外の何かと勘違いしているのではないか。そんなバカげた想像をしてしまう。

 それなりに長時間歩いてきたので、足はちょっと痛くなってきたけれど、ここのところ山への出撃を繰り返してきたので、体力的な余裕はまだある。大した山にも行っていないけれど、山歩きを習慣づけることの効果は、こういったところに現れて来るのか。とどのつまり、その大会運営とやらに追いついてやろうではないかという気になった。そういう座興めいたものがないと、飽きが来てしまいそうだった。

 岩橋山以降、道は急激になだらかになった。葛城山頂までの標高はかなりのところまで稼いでいる反面、残りの距離はまだ4㎞以上はありそうだ。アップダウンさえなければ、そこまで骨の折れる登りも残っていない道理となる。13:03、持尾辻の「石板」回収。辻とはよく言ったもので、山中の平たんな交差点と言った雰囲気の場所である。大体この辺りで、おじいちゃんが言っていた大会運営を捕捉した。参加者の中で最後尾なのだろうおばちゃんズに随伴していた。

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 ところがどっこい、最終盤は稜線伝いのアップダウンが多い道のりだった。そう遠くない丹沢決戦のための練習用にはこういうコースが良いのかもしれないと思いながら付き合ってきたけれど、あまりに変化がないのでそろそろゴールしたいとも思う。そしていよいよ、葛城山の本峰に取り付いた感じがした。またしてもまっすぐで長い木段が姿を見せるようになってきた。ダイヤモンドトレールの「だ」は、木段の「だ」。そう思えるほどに何度も見てきた光景だが、終わりが近いことを実感しながら、これに取り組む。立派な良い階段だ。山梨県にも爪の垢を煎じて飲ませたい。飲ませるのは、奈良県の垢か、それとも大阪府の垢か。

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 何度目かの階段を突破し、林相が変わったところで、なんだか引っかかる看板を見つけた。「ダイヤモンドトレールから山頂 1.0㎞(階段多い)」。やっぱり、整備した側も気にはしていたらしい。もう一つ、階段は少ないが回り道路なるコースも示されていたが、何であれダイヤモンドトレール以外のルートを歩く気はない。階段を登る。

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 そして14:10、初級ゴールに到着。飛び入り参加みたいなものなのでスタートがどこなのかよくわからないが、とにかくリタイアせずに歩き通したことで、初級者として認められた気がした。周辺には、一部大会参加者と運営スタッフがたむろしており、広場の一隅に集められたごみなどに、祭りの後が感じられた。が、ここはまだ葛城山の山頂ではない。なぜここがゴールとなったのかは定かではないが、とにかくしるべに導かれるまま、山頂を目指す。山頂は前回の山行の時に踏んでいるので、屯鶴峯から葛城山エリアまで道をつなげられれば今回究極の目的は達したことになるけれど、ここまで来た以上、せっかくなら山頂は踏みたい。そう言えばこんなところだったなあという観光地化された雰囲気の道をたどり、14:15に葛城山山頂に到着。前回登ったのは初夏のことだったと思う。今回はそれから半年ほども季節が進んでいる。葛城山の山頂は、すすき野と化していた。

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 戦い終わって、ロープウェイの方に向かう。以前は立ち寄りもしなかった山上駅の窓口で、フリーきっぷに付属していた割引券を渡すと、窓口のおじいちゃんはそれを矯めつ眇めつしていた。あまり使う者がいなくて、それが何なのかわからなかったのかもしれない。トラブルにつながるといやだなあと思っていたが、さすがに「葛城山ロープウェイ割引券」と印字されているので、それがどういうものかは通じたらしい。ロープウェイ運賃は片道950円。5割引券のようなので475円になるのかと思いきや、おじいちゃんは電卓をたたいて1の位を丸めた額を提示してきた。

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 乗り場も含め、ロープウェイからの展望は今日随一だった。何時間もかけて登った高みだけれど、文明の利器による空中散歩は、10分とかからず終わった。ロープウェイを降りた先は奈良交通バスのバス乗り場となっており、たぶん大会参加者と思われる登山層の客が行列をなしていた。やって来たのは、田舎でよく見るタイプの、小型バス。そこに途上国のバス並みのぎゅうぎゅう詰めで乗客が乗り込んだ。ソーシャルディスタンスもへったくれもない超過密状態だったが、歩けば20分ほどの距離になる近鉄御所駅までの道のりを、バスはいかにも重そうに車体を揺らしながら走って行った。

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