山登ってみよう【縦走東海自然歩道・沓掛~加太】

 東海自然歩道歩行は、よほどのことがない限りあと4回でゴールにたどり着く。山中湖まで歩く次回。丹沢はエスケープポイントの関係で二分割縦走以外のやり方が思いつかない。丹沢を終えたら、後は1日で高尾山まで歩く。ただ、これで完結かというと、そうでもない。支線があるのもさることながら、本線のうち、三重県の加太前後が通行止めとなっており、ここを歩けていない。

 そのはずだった。しかし、高尾へのゴールが近づいているのを契機に、再度この区間に関する情報をネットで集めていたところ、三重県公式では亀山から伊賀に抜けられないとアナウンスされている一方、直近でこの区間を歩いたという個人踏行記がいくつか出て来た。いったい、加太の山奥で何が起きているのか。様子を偵察がてら、あわよくば柘植まで突破してやろうという魂胆で、止まったままの三重県沓掛から先の道を歩くことにした。

 新幹線を絡め、時に前泊というのが常態化しつつある最近の東海自然歩道歩行など別世界の出来事のように、朝一番の関西本線鈍行に乗り込み、関駅に向かった。今となっては不思議な感じはするが、もともと東海自然歩道の旅はこんな感じで気楽に出かけて気楽に歩くものだった。そのありようが変わるほど長い旅になろうとは、最初の頃には思いもしなかった。ただ、今回の導入となる関西本線関駅は、JR西日本の管理に属する駅のため、名古屋からの距離に反し、到着までには時間がかかる。駅に降り立つ頃には午前8時を過ぎていた。

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 関駅は、東海自然歩道ならぬ東海道の宿場町・関宿の最寄り駅でもある。観光地化はさほど進んでいないので、何度か行ったときはさほどに意識はしていなかったのだけれど、日本全国津々浦々の宿場町と呼ばれるものの中でも、比較的よく旧時代の面影を残す部類に入るらしい。前回の打ち切りポイントまでは、国道1号を鈴鹿峠方向に向かって歩いていけばたどり着ける。ただ、歩道があるかどうかも怪しいような道なので、旧東海道を歩きながら、東海自然歩道のエントリーポイントに向かった。最後にこの付近を歩いたとき、疲労困憊していたこともあってひどく長い道のりに感じられた。今日、新しい気分で朝一番から歩いてみると、さほど遠い道のりではなかった。それでも1時間ほどは歩いた計算にはなるので、近い道とも言い難いが、とにかく9:10、数年越しで東海自然歩道の沓掛に戻って来た。

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 ここから先、しばらくは舗装道歩きが続く。歩くのに何ら問題のない区間だ。小一時間歩いたところで山道に入るはず。今日問題となるのはそこから先だ。その道が、三重県からのアナウンス通り途中までしか歩けないようだったら、結局は今歩いている山間の舗装道を加太駅まで歩くことになる。道沿いには民家も見当たらないが、国道1号と25号の抜け道となっているためか、細い道ながら意外に多くの車が走っていく。そのことを除けば、そんなに雰囲気の悪くない山間の道だ。

 やがて、道は舗装道から分岐して右手の山中に向かっていった。分岐点に指導標があるにはあるが、わかりにくい道案内だ。それに、意図的なものなのか経年劣化なのか、文字の部分が白く塗りつぶされたようになっている。どこにも通行不可という文言は見当たらないものの、それを表すために文字をつぶしているのかもしれない。表示された文字が国鉄加太駅のままになっているところを見るに、単なる経年劣化とも取れる。こちらの都合で、どうとでも解釈できるような指導標だ。

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 ただ、そこから始まる地道の整備状態は悪くなかった。やたら急な擬木段を登ることにはなったけれど、階段自体はまだ真新しい感じがする。そんな調子の数十メートルオーダーのアップダウンを繰り返しながら、小細い尾根上に道は続いていく。要所要所指導標もあるし、わりとマメに整備の手が入っている道という印象ではあった。これなら、上手くすれば柘植まで抜けられるのではないか。期待を抱き始めていた矢先、そんな思いははかなく裏切られることになった。

 三重県のホームページに見られる説明によれば、「峠までは行ける」というような抽象的な表現で、途中から通行止めとなっていることが示唆されていた。この峠というのが、名のある峠ではないらしいのが曲者だった。途中の、やっぱり名もない一ピークを擬木の階段で登り切ると、その反対側斜面には、崩れかけた木段と踏み跡程度の道しかつけられていなかった。明らかに、整備水準が落ちている。きつい傾斜でスリップ転倒しないよう気を付けながら少しばかり進んでみたが、ちょっと見た感じ、先に進むことで状態が劇的に改善することはなさそうだ。もちろん、災害による破壊を免れた区間も現存しているだろうけれど、快適な歩行は期待できない。三重県が言う、そこまでは歩けるというポイントがここなのだろうと思い、撤退することにした。

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 今日の成果は、決して晴れがましいものではない。東海自然歩道本体部分で前進した距離は、正味2~3㎞程度。強いて言うなら関駅から東海自然歩道に入るより、加太駅から戻ってくる方が、歩行距離も所要時間もそれなりに短くはなるので、次回、有利に事を運ぶための橋頭保を築いた、とも言える。それに、この名もない山中の一地点に立つ鉄塔下から眺める景色も、なかなか悪くはない。絶景というほど華はないが、空は高く青く晴れわたり、ここまで来たことも全く無意味ではなかったかなと思えた。

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 その後は、来た道を引き返した。そして、先ほど中座した舗装道路の続きを歩き、加太駅の間近に出た。加太は、神君伊賀越えの地として知られるが、徳川家康が苦心惨憺してこの地を通ったという言い伝えについて、眉に唾したくなるような、穏やかな山間の集落が広がっていた。良くも悪くも特徴のない、ありふれた田舎の風景。こんな用事でもなければ、一生歩くこともなかったような山間。東海自然歩道の旅は、そんな「普通ならあり得なかっただろう出会い」を探す一期一会の旅。いや、私が東海自然歩道を歩こうと思い立ったのが、そもそも多生の縁なのかもしれない。とにかく、そんなことで良いのかなと、最近では思い始めている。

 加太駅自体は小さく、駅前に自販機もなければ券売機もない。いつか柘植までの道が開けた日には、準備万端でこの地に戻って来なければとなるまい。ただ、通行止め期間もいい加減でかなり長くなっている。万が一、復旧を放棄され廃道の憂き目を見るようなことがあったら。その時は国道25号を柘植まで歩くことになるのだろうか。

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