山登ってみよう【太郎坊山】

 駅メモが、近江鉄道とのコラボイベントを開催しているのだそうである。ややマイナーな近江鉄道という鉄道会社は、滋賀県内に路線を有する私鉄だ。その路線はJRの東海道本線と並行する箇所が多く、米原駅、近江八幡駅、貴生川駅などでJR路線と接続している。言い換えれば、沿線住民でもない、専ら滋賀県を通過するだけの旅行者が近江鉄道線を利用する機会はごく限られる。かくいう私も、ゲームの進行上一度だけほぼ全線乗り通したことがある以外は、新幹線や高速バスの車中から、近江鉄道所属駅をひっかける程度の関係しかなかった。ただ、その程度の関係の中で気になる駅もいくつかあった。多賀大社駅、太郎坊宮駅などがそうだった。

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 イベントの情報を見ていると、今回のイベント対象駅の中にはそれらの駅が含まれており、ついでに駅から近い多賀大社や太郎坊宮などの神社もイベントスポットに設定されているらしかった。さらに興味深いことに、太郎坊宮のことを調べていると、なかなか急峻そうな山に建っているらしく、しかもその後背の山にハイキング気分で登れるのだという。となると、イベントをこなしながらその太郎坊宮山に登ってみようと思うに至ったのも必然と言える。

 伊豆と違って滋賀県は近い。何と言っても新幹線を使わなくて良いのがありがたい。なぜここで伊豆の話をするのか、自分でもよくわからないが、とにかくいつものように在来線を乗り継いで、7時半過ぎには米原駅に着いた。ここで1日乗車券を買い、近江鉄道線に乗り換え、最初に多賀大社を目指した。

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 お多賀さんこと多賀大社の創建時期はもう一つはっきりしない。ある程度確実なところとなると、まあ平安時代くらいにはあったものと思われる。祭神は、イザナギとイザナミ。この間までやっていたペルソナ4にも出ていたというか、国生みの神として日本神話の劈頭に位置する二柱の夫婦神だ。そうした由緒もあって、神社の雰囲気はなかなか良い。また、門前も広く、観光地として訪ねるのも楽しそうだ。失敗したのは、朝一番でここに向かったために開いていない店の多かったことだ。まあ、ほどほどの時間に太郎坊宮に向かうのを旨として旅程を組んだので、ここは仕方ない。

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 その後、ゲームのイベントスポットとなっている豊郷小学校旧校舎群、水口城址に向かった。豊郷小学校にはあまり興味がなく、スポット自体が鉄道路線から近かったので駅で下車せずにやっつけられないかとも思っていたが、そうは問屋が卸さなかったので、駅で下車して近くまで散歩はしてみた。かたや水口城址は、すでに攻めたことのある城なので、こちらもゲーム用に消化。豊郷も水口も、それぞれ街道にゆかりの街で、前者は中山道、後者は東海道が通っている。東海道はともかく、いつの日か豊郷まで歩いてやって来ることもあるのだろうか。最近、中山道ウォークに着手しようとしている。

 ということで、外堀から埋める形でイベントスポットを片付け、12時半少し前に太郎坊宮前駅に到着。まず驚いたのは駅の簡素さで、プレハブどころか駅舎もまともにないほぼホームだけの駅だった。神社の方は霊験あらたかとして関西方面で名高いようなので、その玄関口としては味気無さ過ぎる。工事中の仮駅舎なのかと思いきや、wikipediaの同駅記事を見ていると、同じように簡素で、しかも古めかしい駅の画像が出て来るので、近年に建て替えられた正式な駅舎なのだと思われる。

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 駅を出て、北の方に向かって歩いていくと、すぐ太郎坊宮の一の鳥居があった。そしてその向こうに、一目見てそれとわかる岩山がそびえていた。高さこそさほどでもないが、低平な近江盆地の中にあっては異様とも言える山容の太郎坊山だ。またの名を赤神山ともいうらしい。まずは山麓までと思って歩いてみると、思ったより近い。10分ほどで神社に通じる石段の下までたどり着いた。家族連れや老夫婦が多く、いかにも観光地然とした神社という感じはする。ただ、同業者と思しき風体の者たちも、隠しきれない独特のオーラをその身から立ち上らせながら、周辺を闊歩していた。このあと私は、「鉄道使い」は「鉄道使い」とひかれ合う…この運命的ルールを…実に2年ぶりに思い出す事になる。着いたばかりのこの太郎坊宮の参道で。

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 神社や山寺の参道はこうしたものという仕様でもあるのだろうか、太郎坊宮の社殿と思しき建物があるあたりはそんなに高く見えないのに、石段はやたらと急で思いがけず息が切れる。それでも10分ほどをかけて、社域の最高所まで上り詰めた。巨岩のすき間の細い道をすり抜けるようにして歩いた先に本殿があった。小さな建物だ。本殿前の舞台上からの眺めが特筆に値する。高度はさほどでなく、今日の天気もさえないが、琵琶湖を中心とした盆地に開かれた近江国を見渡すには、人里を間近に感じられるこのくらいの高度感の方が良いような気がする。ゲームイベントへの参加という非常に俗っぽい動機でやって来たにしては、なかなか良いものを見ることができた。

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 本当にゲーム目的だけで来たのであれば、そんな感想をもってメデタシメデタシだっただろう。しかし、今日の私の最大の目標は、頭上に聳える岩場の上に回り込み、ここ太郎坊山の頂に立つことにある。困ったことに、そのための道を見つけられなかったがために、いきなり本殿まで来てしまったのだった。難しい山でもあるまいと、たかをくくってYAMAPの地図を見ていなかったので、ここで再度ルートを確認した。当然のことながら、ここよりだいぶ下の方で山頂への道が分岐しているらしい。商業施設と見まごうばかりの、参集殿の裏手辺りに、細い道があった。近くにあった看板が、太郎坊山の別名である赤神山表記になっていたので無意識のうちに見落としたのだろうか。歩いていくとすぐに、これぞ登山道という地道になった。

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 参道には多くの人が行き交っていたのに対し、舞台裏のようなこの道にはほとんど人影もない。静かな冬枯れの道を行く。参道とは何もかも対照的なことに、こちらの登山道は傾斜もなだらかで楽に歩ける。本殿への道から分岐して10分ちょっとで山頂に着いた。麓から見上げていた時の印象とは裏腹に、ある程度の広さのある頂だった。と言っても、十人も人が集まってくれば手狭になってしまいそうな広さではある。幸い、私のほかには一人のおじさんがいるだけだった。何か宗教的な意味があるのか、近くの山道から石を運んできては物陰に消えたかと思うと戻ってきて、また山道の方から石を運んできている。そっとしておこう。

 山頂からの眺めは、本殿付近からみた光景をほぼそのまま、少し上空から見下ろすような感じのものだった。予想もしなかった絶景というには少しパンチが欠ける。でもまあ、立ってみたいと思った山の頂に立てた。今回に関しては、その一点がゆるぎなく重要なのだ。納得と満足を得て、山を下りた。

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