山登ってみよう【縦走須磨アルプス】

 例年通り、青春18きっぷを買ってはみたものの、この春は大遠征の旅程が組みにくかった。その結果、2回分の使い道に困ることになり、迷った挙句須磨アルプスに行くことにした。六甲全山縦走路の西端にあたる。神戸市中心部の後背にそびえる山々の標高が数百メートル台後半を誇るのに対し、須磨アルプスは300m強の低山の連なりとなっている。街中にも近く、アクセスが容易なので家族連れのハイキングコースとしても人気らしい。あまり易しい山ばかり狙っていると体が鈍ってしまいそうなので、ちょっと長めに、須磨浦公園駅から鵯越駅まで歩くことにした。

 コースタイムを計測すると、1日コース程度にはなりそうなので、早めの出発を心がけた。つもりだったのに、よもやの寝過ごしがあり、須磨浦公園駅に着いた時点で11時半が迫っていた。本来なら、10時過ぎにここからスタートを切るつもりだったので、1時間ほどの遅れを背負うことになってしまった。それでも一応、日暮れまでにはゴールできるはずだ。ただ撤収時刻が遅くなるだけの話。そう自分に言い聞かせる。

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 公益財団法人神戸市公園緑化協会のホームページによると、須磨浦公園は「淡路島を望む鉄拐山、鉢伏山を含む傾斜地と海岸沿いの松原から形成された景勝地で、有名な源平の古戦場、さらに現在は桜の名所として知られています」とある。須磨浦なので海側の公園だとばかり思っていて、電車でいつもこの辺りを通りかかる際、海沿いに広い平地がなかった印象もあって、地味な公園を想像していたのだけれど、なかなかどうして立派な公園らしい。というかまず、駅を出て大勢の人でごった返しているのに意表を突かれた。駅を出てすぐのところにロープウェイがあるので、その乗客が列をなしているらしい。なんかお洒落なケーキ屋さんみたいなのもある。腐っても神戸市内ということか。

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 いつもの癖でロープウェイに乗りたくなるも、思いとどまり、その脇に延びていく道を登っていく。一応、11:26スタートとしておく。登山道という雰囲気ではない。舗装された道路で、普通に車で上がっていくこともできそうだ。歩いて登っている人の姿も多く目に付く。ただ、風体を見るにハイカーというより、普通の観光客が余興気分で登っているような感じである。地図とアプリで調べたルートに従って歩こうとしていたら、ほどなく散策路風の道に引き込まれはしたが、相変わらず歩いているのは観光風の人が主である。

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 こちらも正統登山道でなく延々石段が続く道となっているので、思ったより骨が折れる。そんな中、11:48に鉢伏山の山頂に到着。直前のロープウェイ駅付近に観光地らしい繁華さがあったのと対照的に、広場にベンチが置かれているだけの落ち着いた山頂である。桜の時期ということもあり、観桜ハイキングの客が広場のあちこちに陣取っている。さらに5分ほどで旗振山山頂へ。営業しているのかしていないのかわからないような茶店の前が小さな広場になっており、そこから瀬戸内海と明石海峡大橋、淡路島が見える。今日の天気がさほど良くないのは残念なところながら、天気に恵まれれば景勝地の名に恥じないだろう。

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 旗振山前後から土の登山道となっていることも影響しているのか、さらに先の鉄拐山に着くころには、見るからにハイカーという人以外の姿はめったに目につかなくなっていた。鉄拐山には12:04に到着。ちなみに、鉄拐山と書いて「てっかいさん」と読む。そのままと言えばそのまま、「拐」の字は、「誘拐」という単語に使われるかどわかす意味の字なので、いわれは気になるところ。現地の雰囲気は、恐ろし気な人さらいの気配もなく、展望に恵まれた開放的な山頂である。というか、ここまで一応三座の山頂を踏んできたことになるのかもしれないが、鉄拐山以外は顕著なピークではなく、稜線上の一地点くらいにしか見えない。

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 そんな調子で、もう一つメリハリには欠けるゆったりとした稜線上を歩く。備長炭の材料として名高いウバメガシの生える林が続いている。しかし、そこはやっぱり神戸の山、いつの間にやら舗装の施された広場に出た。ここにも展望台のような建物があり、「おらが山 屋上展望台」という古色蒼然とした看板が出ていた。そして「晴れた日は大阪城が見える」という手書きのチラシも張り付けられている。今日は、大阪城らしきもののかけらも見えない。春霞がいけないのか、望遠鏡を通してみていないのがダメなのか定かではない。それにしても、さすがに須磨浦公園の範囲を出はずれただろうこの期に及んでまさかまだこれほど大掛かりな建造物に出くわそうとは。外れの方とは言え、ここも六甲山系ということか。

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 展望台のあるあたりは、高倉山というなだらかなピークらしい。大阪城はともかく、眼下には神戸市郊外の団地が見える。六甲山縦走路は、その団地の方に向かってまっすぐに下り始めた。これまたコンクリート製の、まっすぐな階段だ。結構長いので、下るにはともかく登るに骨が折れそうな道だ。5分ほどで下りきると、上から見えていたまさにそのままに、団地の真中へと行き着いた。これでも一応、須磨の市街地とは山で隔てられているはずなのに、非常に都会的な雰囲気がある。まあ団地という街区自体が昭和の遺物という気がしないでもないが、少なくとも田舎の雰囲気ではない。道すがらには、自販機どころかショッピングセンターに喫茶店まであり、ハイキングコースとしては異例の利便性を誇っている。ちょうど昼時、これなら道中で物資の補給もできて便利だったろうなあと、今さらながらに思う。

 無論、今日歩いているのは曲がりなりにもハイキングコースの一部だ。街中歩行の時間は10分ほどで終わり、次の山が始まった。山道が始まりはしたが、視線のすぐ下に幹線道路が走り、多くの車が走り抜けていく。変化の多いコースなのは、面白い。道の脇には「ここからの須磨アルプスは風化が激しく危険な場所もありますから十分注意してください。特に強風・降雨時には気をつけて下さい」と、警句が掲げられていた。なるほど、言ってることは確かにアルプスみたいな内容である。というか、まず目の前の道がいきなり厳しい。風化した道とは真逆の、またもまっすぐで長いコンクリートの階段。下から見上げた感じでは上部が見えない。さほど高い斜面に着けられているわけではないのが救いだ。腹をくくって登る。ちょうど最近、「たいようのマキバオー」を読んでいるので、ヒノデマキバオーのような勝負根性で、休むことなく登る。なかなかきつい登りではあったけれど、10分近く休むことなく歩き続けたところで、なだらかな尾根道に入った。木陰となったことも相まって、心地よい。大丈夫、立てるよ。ボクは大丈夫!

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 登り切って少し行った辺りを栂尾山というらしい。12:41到着。木製の展望台があった。しかし、かなりの数の人が滞留しているので、手狭に感じられる。ここはひとつ、休憩は挟まずに歩き続けることにした。なお緩やかな登りは続くものの、人工的な階段に比べれば格段に歩きやすい。この辺りの山道は、「風化が激し」い、ざれた岩の道となっている。見たところ、たぶん花崗岩なのだと思う。石材としての花崗岩は御影石と呼ばれるのは、六甲山系に近い神戸市の御影に由来するものなのだそうだ。古くは城の石垣にも使われた石で、江戸時代の大城郭に使われた石材の主要な産地は瀬戸内の島だったというから、この地域には広く存在している岩なのだろう。

 そんな道を行くこと15分ほどで、次のピーク横尾山に着いた。三角点がある以外、特にめぼしいものはない。わずかに覗く木々のすき間からは海に面した神戸の中心市街地と、六甲山系によって隔てられた山間地域が見える。山の間近まで高度に都市化した景観が続く眺望は、やはり六甲特有のものという気がする。山側の街は、須磨ニュータウンと呼ばれる地区のようである。もともと、人工島であるポートアイランドを神戸市街の沖に造成するにあたり、丘陵地だったこの辺りから土砂が搬入され、その分平らに均された土地を街にしたということだ。実は酒鬼薔薇事件の現場となったのもこの地域に含まれる。

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 横尾山の先は一気に高度を落とす急坂となっていた。そしてそのさらに先には、想像もしていなかった風景が展開されていた。この先の縦走路には、ところどころ樹林の途絶えるところがあり、そこは小アルプスさながらに岩場が発達していた。本場ヨーロッパはもちろん、日本アルプスほど延々岩稜が続くというわけでこそないが、須磨アルプスとちんまり名乗るにはふさわしいだけの、エキサイティングなコースのようだ。少し前にいるおばさんは、へっぴり腰で狭い岩場を歩いて行く。渋滞ができている。足を踏み外したら大ケガしそうな狭い道ではあるけれど、足を踏み外すほど不安定な足場というわけでもない。どうやらこの辺が須磨アルプスの白眉で、馬の背という。低山クラスの急峻な地形では良く耳にするタイプの名前だ。

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 わざわざ神戸くんだりまで低山を登りに来るのもどうなのだろうかと思っていたが、なかなか楽し気なコースで良かった。ゆったり流れる人波に乗って、馬の背を通過し、その次のピークである東山に到達した時には13時半が間近に迫っていた。一般に須磨アルプス縦走というと、ここから板宿駅方向に下るケースが多いらしい。今日の私は初志貫徹で鵯越駅に向かうものの、この先にさほどの見どころがないわりに歩行距離がのすから、ライト層に敬遠されるのだとも言う。ともあれ、山を下る。20分ほど歩いて、またしても住宅地の外れに出た。家の近所にこうした山があるのはちょっとうらやましい。低すぎてトレーニング向きではないかもしれないが、その気があるなら毎日登山に良さそうだ。

 当然住宅地に入っても、六甲全山縦走路は続く。看板類もあるところにはあるものの、道順に若干自信を持てなくなる。一つ一つ順序を確かめるように歩いて行くこと30分。思ったより長い街歩きの末、最後の山である高取山への道が始まった。ここ最近怠けていたこともあって、さすがに疲れも見えてきた。わずかに3時間の歩行に疲れを感じるのには少しばかり参ったが、淡々と続く登りをこなす。道中、なぜか鎖場もあったりしつつ、30分ほどで高取山の山頂付近に着いた。時に14:32。

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 この山の頂付近は、神社になっている。ハイカーに素通りされることが少なくないのか、展望などを強調し、しきりに神社の方に誘導する看板が目に付く。無人の神社ではなく、むしろ居住している人さえいそうな、生活感のある神社だ。社務所もある。ただ、真の山頂周辺は広場状になっていて何らかの石碑が立ち並びはするものの、展望に恵まれるわけではなかった。展望は、神社周辺からのそれに勝るものはない。

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 最後の山頂を後にする。神社を去った後も、月見茶屋の名を冠する売店があるなど、観光地みたいな発達の仕方をした山のようである。ただ、その規模は非常に小ぢんまりとしている上、建物も老朽化が進んでおり、摩耶山などのような晴れがましさはない。昭和40~50年代の観光地と言った風情だ。なかなか味はあるものの、コロナ禍も影響しているのか、店が営業している雰囲気ではなかった。そして15分ほど下って、また街中に出た。このあたりから少し離れたところには、その名も「山の街」という駅もあるが、むしろその名はこの近辺にこそふさわしい気がした。傾斜地とその底のくぼ地に、多くの家や商店が立ち並んでいた。

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 事前に地図で図上演習をしていた際、この先はずっと市街地歩行になる消化試合区間だと思っていた。ところが、実際に歩いてみるとこの地域のアップダウンはかなり激しい。無論、市街地が続くのは間違いない。ただ、街中とは不似合いなほど傾斜した土地が多く、必然的に坂道も多い。半日コースの山歩きを続けてきて疲れがたまり始めた足で歩くのは、思いのほかこたえる。一応、地図その他からの情報を見るに鵯越駅までは直線距離にして1㎞を切るほどにはなっているようだが、ゴールが近いという体感がない。坂道を上ったり下ったりしつつ、細い路地をくねくね曲がった先、唐突に鵯越駅は姿を現した。15:37のゴール。どちらかというと古めかしい住宅地の一画に、ひっそりと身を潜めるかのような駅だった。神戸鉄道有馬線に属するこの駅は、速達列車こそ素通りするものの、そもそもの列車本数がそんなに少なくもないため、少し待っているうちに新開地行の列車がやって来た。

 YAMAPの記録を終了する。約4時間、11㎞あまりの距離を歩く間に、累積標高で1000m強を登っていたようである。低山ハイクとは言え、それなりの運動量だったらしい。終盤息切れしたのも、それなら仕方がないかと思いなおし、鵯越を後にした。この駅から布引の滝まで歩けば、六甲山縦走路の主だった区間を繋いだことになるが、その日が来るのかはまだ何とも言えない。

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