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間違って覚えている情報について検索している人の訪問を受けることがある。よく目立つのが、靴のメーカー名をホーキングだと誤解している人と、ブルンヴァンの著書を「消えたヒッチハイカー」だと覚えているらしい人だ。靴のメーカーはホーキンス、ホーキングは車椅子の物理学者、そしてブルンヴァンの本は「消えるヒッチハイカー」である。 ブルンヴァンは自身の著書に「消えたヒッチハイカー」ではなく、「消えるヒッチハイカー」と名づけたのである。文字にしてしまうとちょっとした違いに過ぎないのだが、この本を著した当時のブルンヴァンには、車中から忽然と姿を消すヒッチハイカーの話は過去形で語られるものではなく、未来にわたって語り継がれていくことになるだろう予感があったのだろう。日本語版の発行が1988年、原著の発行に至っては80年代初頭のはずであるが、御大は本の発行後もヒッチハイカーはあちこちで姿を消し続けるだろうと考えていたのだと思う。そして、実際そうだったに違いない。80年代をお子様として過ごした私の身近でも、「消えるヒッチハイカー」の系譜に連なる話がしばしば聞かれた。もっとも欧米ほどヒッチハイクが一般的ではない日本のことであるから、その筋立ては換骨奪胎され、消えるのは厳密に言えばヒッチハイカーではなくタクシーの乗客だった。いわゆる、タクシー怪談である。 さてブルンヴァンの本の初版から二周りほども過ぎた現在、ヒッチハイカーは今も「消える」存在なのだろうか。それとも「消えた」存在になったのだろうか。少なくとも日本国内においては、タクシー怪談はすでにかなりの手垢がつき、あまり流行らないだろうなあという感はある。すでに実話怪談とか現代伝説とか言うよりは古典怪談の範疇に属するものとなっている。今ではいい年の大人相手にこの種の話をしても、懐かし物扱いされるのが関の山だろう。 しかし、定番怪談を知らない子供や、今後生まれてくるそのさらに下の世代にならウケるかもしれない。いくらか今様に装いを変えることはあるかもしれないが、日本のタクシー怪談は駕籠屋の昔から語り継がれてきた由緒正しい怪談話なのだ。そう考えると、タクシー怪談は潜伏期に入っているだけなのかもしれない。免疫のない人たちが増えてくれば、もう一度ぐらいは流行るときがくるのかもしれない。流行と流行のサイクルがどの程度になるかと言う問題もあるのだけれど、およそ都市伝説などというのはそういうものなのだ。ちなみに、深泥池の事件が1963年。ホテルニュージャパン跡近くで拾った客はいつの間にか姿を消すと言われて、火災現場付近でタクシーが乗車拒否が相次ぐようになったのが1982年ごろ。特にニュージャパンの方は、当時のタクシードライバーからは相当恐れられていたようだ。ともあれ、何かきっかけがあれば、古典的な怪談でも20年サイクル程度で再生するものなのかも知らん。 「消えたヒッチハイカー」という文字を眺めていて、ふとそんなことを思った。 消えるヒッチハイカー―都市の想像力のアメリカ (ブルンヴァンの「都市伝説」コレクション)
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