嵐山

 夜が明ければ、台風一過の青空が広がっているはずだった。嵐は夜のうちに過ぎ去り、街は平静を取り戻しているはずだった。少なくとも、暴風の吹き荒れる状況は確かに終わりを迎え、ビルの階上から見下ろす限り、人々は一見普通の一日を迎えようとしているようだったが、超大型といわれた台風が残した爪痕は、決して浅いものではなかった。

画像 今日の予定は決まっている。嵯峨野漫歩。これである。嵐電で嵐山にアプローチした後、周辺の観光名所を渡り歩くつもりである。そのために何を置いても、まずは四条大宮に行く必要があった。多少出発時間が早かったので、京都大神宮という大仰な名前に反して萌え化が著しいという神社に寄り道。ところどころに美少女巫女さんのイラストがあったりする以外は、正統派の神社という感じである。



 その後、河原町駅に向かう。ところが、トラブルの予兆はすでに京都の中心市街を脱出する前から始まっていた。路線延長が短い上に市街地を走るだけだから、台風の後遺症などまずないだろうと踏んでいた嵐電が、あろうことか沿線で発生した倒木のために運転を見合わせているのだという。

 出鼻をくじかれた形だが、嵐山に行く方法など他にいくらでもある。バスでもJRでも良いが、どうせ大宮まで来ているので阪急で嵐山に向かうことにした。桂での乗換えが若干わずらわしくもあるが、それでも20分ほどで嵐山駅に到着し、渡月橋を渡って桂川の左岸に向かう。嵐山というと何年か前の洪水被害が記憶に新しい。鴨川同様、桂川も濁流と化してはいたが、幸い今回は破局的な被害は出ていなさそうだ。

画像 嵐山までやってきたのも結局はあのゲームの影響なのだが、段々と分かってきている。たとえ報酬がもらえるのだとしても、端的には、イベントをこなすための交通費よりゲーム自体に課金した方が安く上がると言うことを。だが、本質的にはお出かけを楽しくするというこのゲームのコンセプトを買って、プレイを開始したのだ。出歩くきっかけとなればそれで良いではないか。まあ、モバイルバッテリーの複数持ちのための購入費用が高くついたとか、充電できるところ以外泊まりにくくなったとか、そういった部分については折り合いがついていないところもあるけれど。

 まずは第1チェックポイントの渡月橋をクリアした。阪急の駅から来れば必然的に橋を渡ることになるのでこれは良い。次に目指すはかの天龍寺内にある塔頭寺院・宝厳院。寡聞にして知らなかったのだが、紅葉の良い寺らしい。なのだが、まだ紅葉のシーズンには少し早い。それに紅葉シーズンの嵐山など、想像するだに恐ろしい人出が見込まれる。というか、時間が微妙に早いのでお寺自体が開いていなかった。京都の有名寺院は午前9時には拝観が始まるところが多く、そういうところは観光都市だなあと思うのだけれど、通常非公開のところ季節のイベントものに連動して公開を行っているお寺は、拝観開始が遅く、拝観終了が早い傾向にある。宝厳院もそういうお寺なのかもしれない。ホームページを見ると、現地で見かけた「獅子吼の庭」というキーワードは確認できたのだけれど、どうも特別公開の対象となっているらしい。

 実はゲームのイベントをこなすだけならお寺の中に入る必要はない。ただ、それだとあんまりなので、天龍寺にも寄っていく。日本史の教科書には、足利尊氏が云々、天龍寺船云々と書かれているのだろうか。かく言う私は高校時代に日本史を取っていないが、そういう時代に源流を発するお寺で、寺格は数ある京都のお寺の中でもトップクラスに位置する。もっとも、今見られるお寺の様子に触れる限りでは、謹厳な修行の場という雰囲気ではない。

 天龍寺をはじめ立派な庭園を備えるお寺というのは、実は有力大名などが京都に滞在する時の宿所としての機能を担っていたという一面があるらしく、そのため宿としての売りを作る意味でも作庭に力を入れたという話を聞いたことがある。天龍寺も嵐山を借景にした庭園で有名だ。その庭を、大名の宿となっていたのかもしれない本堂から眺め、さらに庭側に降りて堪能する。もちろん悪くはないのだが、うっすらと始まっている紅葉を見るに、たぶんハイシーズンはこれから向けるのだろうなあと思う。その頃になると、庭を見てるんだか人を見てるんだかという状態なのかもしれないが。

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 天龍寺の裏手に伸びるのが、有名な竹林の道だ。ここを通って、チェックポイントの一つになる野宮神社に向かおうとするが、台風後の惨憺たる有様が広がっていた。落ち葉が道を多い尽くしているような状態で、それだけならまだ見苦しいだけですんで良かったのだが、一部には倒木が見られた。根こそぎ倒れており、場合によっては道を損壊させたり、あるいは道をふさぐ形で倒れていてもおかしくなかったのかもしれない。昨夜は気密性の高いビルの中で過ごしていたのでまったく外の状況が分からなかったのだが、雨のみならずかなりの暴風が吹き荒れていたのかもしれない。

画像 野宮神社は、過去の京都一周トレイル歩行の時などに目の前を通りすがったことがある。小さな神社だ。その割にはわりとたくさんの人が集まっており、今はやりのパワースポットだ何だで売り出しているのだろうか。もちろん、入場有料とかではないので一応境内に足を運ぶも、ゲーム上、ここはいつの間にやらクリアしていたようだ。

 その後、大河内山荘、常寂光院と歩く。大河内山荘は未訪だが、いまいち食指が動かないのでパス。常寂光院は既訪。共に中には入らず、外からチェックインして済ませた。

 今日の本命は落柿舎だ。嵯峨野の一画に結ばれた小さな草庵は、一時期松尾芭蕉の弟子・向井去来の別荘なのだそうだ。一度は中に入ってみたいなどと思いながら、小さな空間で他に客がいないとかだと気詰まりになりそうだなと敬遠してきた。だが、今日こそ中に入ろうではないか。勇んでみたが、現地にたどり着いてみると、入口が閉ざされ、何かの掲示が出ている。どうも台風被害の片付けのため、午後から公開開始ということらしい。建物が破壊されたというより、今日ここまでの様子を見る限り、ゴミや落ち葉が飛散しているということなのかもしれない。

 寂しい結末となったが、一応これでゲームイベントはクリアとなった。今度はバスで河原町まで戻らなければならない。道中、嵐電の線路をふさいでいるという倒木らしきものが垣間見えたが、結構本格的に倒伏している。あれでは、そう容易く復旧はするまい。

画像 最後に向かうのは、今日の起点となった祇園だ。お土産として加加阿365のチョコをリクエストされた。お店は祇園界隈の表通りから幾分引っ込んだところにあったので、たどり着くまでにちょっと迷ってしまった。外観が町屋というかお茶屋の建物そのもので、屋号の表示が控えめで見つけにくいというのもある。中に入ってみると、いわゆる和モダン風の店内に、結構いいお値段のチョコが売られていた。もともと、北山通にあるマールブランシュ系のお店だが、ちょっと気の利いた京都土産のポジションを確立したかと思いきや、京都駅前やら京都駅ビルやらに店舗が増え、希少性が薄れてきたために、こういう形態の店舗が出来たのかも知れない。



 諸々込みで、これにて京都ミッションは終了。後は名古屋に帰るだけだが、朝一番で調べた限りだと、どういうわけだが名神高速が通行止めになっているとかで、ここを走る名神高速バスは一日運休。さらに琵琶湖線も強風の影響で運休。台風の余韻こそ残っているものの今現在はさほど荒れている感じでもないので、いずれも昼頃には状況が変わっているのではないかと期待していたが、京都駅まで足を運んでみても何も変わっていなかった。一応近鉄も期待してみたが、こちらは昨日も早くから台風の影響を大きく受けていた紀伊半島方面に進路をとる路線なので、名古屋まで戻ることはできなさそうだ。そんな中、新幹線だけは早くもほぼ通常通りに走っていた。普段の旅を思えば高くは着いたが、結局最も信頼度が高いことを、実例を持って示した新幹線に乗り、名古屋まで戻った。

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