アイアンカムイ・その2

 JR北海道は、平成28年11月18日付で、「当社単独では維持することが困難な線区」として、13の線区を公開している。少々長くなるが列挙していくと、札沼線(北海道医療大学~新十津川)、根室線(富良野~新得)、留萌線(深川~留萌)、宗谷線(名寄~稚内)、根室線(釧路~根室)、根室線(滝川~富良野)、室蘭線(沼ノ端~岩見沢)、釧網線(東釧路~網走)、日高線(苫小牧~鵡川)、石北線(新旭川~網走)、富良野線(富良野~旭川)、石勝線(新夕張~夕張)、日高線(鵡川~様似)がそれで、総延長は1237kmに及ぶ。もとになった報告書では、各線区が置かれた状況を分析し、現実的に考え得る対応をもとにカテゴライズを行っているのだが、ここでは同報告書に出てきた順に表示しているにすぎないので、同一路線に属する線区を順不同に列挙する形になっている。要するに、施設の老朽化が進む一方で利用者が少なく、赤字を生む路線というわけである。

 これら13線区のうち、宗谷本線、釧網本線、石北本線は前回の旅ですでに取っている。対応未定となっている夕張支線を除けば、他はすべて今回の旅で取る予定となっているが、特急の走っていない路線ばかりであることに気づかされる。富良野線のような例外を除けば、一般的な観光ユースには向かないような路線の沿線は、地域自体が活力に乏しく、鉄道の営業成績も振るわないということを意味しているのかもしれない。そしてまずこの旅の手始めとして、日高線に手を付けることにする。

 この日高線がまた、いきなり厄介な路線である。苫小牧からはじめる全146.5㎞が2分割されて13線区に収まっていることから、運行本数が多くない路線だというのは想像に難くないが、2015年に発生した荒天に伴い、海岸部を走る区間の多い日高本線では高波に浚われ、路盤が流失してしまったような場所も多く、その後も台風などによる被害が相次いで状況は悪化の一途をたどった。現在のところ復旧は遅々として進まず、というより事実上鉄路としての復活は放棄されたような形で、途中の鵡川から終点様似までは細々と代行バスが走っているような状況である。恐るべきことに、バスでここを走破しようとすると、移動だけで4時間程度はかかる。盲腸線だが、延長が長い上に駅数も少なくないので、いかにアイテムという逃げ手が用意されているゲーム上の話とは言え、相当先の駅までは実際に移動せざるを得ないため、そのことをもって北海道の難所の一つとされている。

kamuy01.jpg 5:45に苫小牧駅を出る鵡川行きの列車に乗りこむため、駅に向かう。昨夜は暗くて何も見えなかったのだが、駅前一等地にあった元商業施設と思しきビルの周りに仮囲いが建っていて、何とも言えず寂しい気分になる。近いうちに工事を始める予定があるというより、とりあえず機能していない期間に不心得者が入り込むことを防ぐ目的の囲いというようにしか見えない。このビルはいつまでこのままなのだろうか。行きずりの旅人ながら気にかかる。

 些細な話だが、割と最近になって比較的手になじんでいた「えきから時刻表」がサービス終了したため、ごく順当にジョルダンの比率を高めていったのだが、検索機能が相対的に高性能である反面、実は意外な癖があることに気づいていなかった。列車本数の多い都市部での乗り換えを検索する場合にはさして問題にならないのだけれど、これまでの通りに、始発列車で移動を開始する検索条件を設定すると、出発駅では確かに始発列車を選択して、乗り換えなしで移動可能な最遠の駅まで移動するのだけれど、到着駅への到着時刻が最速になるパターンで、かつ出発時刻が最遅となるパターンを選択するアルゴリズムとはなっていないらしい。結果、代行バスへの乗り換えが発生する鵡川駅ではこれという問題もなかったが、さらにその先の静内駅で2時間余りの乗り継ぎ待ちが発生した。静内のバス時刻表を見ていて気が付いたのだけれど、静内を10:33に出るバスに間に合うように苫小牧駅を出発しようとすると、確かに5:45の列車で苫小牧を出る必然性がないことが明らかになった。

 私がそのことを知るのは少し後の話である。苫小牧を出たときは、30分余り列車に揺られた先にある鵡川という地名に、「みどりのマキバオー」に出てきたなあなどとのんきなことを考えていた。北海道に馬産地のイメージはあれど、鵡川という地名はマキバオーくらいでしか聞いたことがない。確かに、バスの車窓から馬の放牧された牧場は目についたのだけれど、鵡川自体は馬産地としてはマイナーどころらしく、メジャーなのは新ひだか町あたりである。後日、北海道の牧場で往年のG1馬の鬣が切られているのが発見されるという事件が発生したが、あれなどは鵡川からも近い日高町の牧場の話である。

 しかし意外なことに、日高本線沿線は、思ったほどに田舎ではない。比較対象としているのが紋別市とか雄武、興部といった、日高とは真逆のオホーツク海沿岸地域なので、土地勘のある人にしてみれば何を馬鹿なことをと言ったところなのかもしれないが、曲がりなりにも鉄道路線の現存する胆振・日高地方とでは格が違いすぎたのだろうか。もっとも、そのオホーツク海沿岸地域にだって、その昔は名寄本線という路線が存在したのだという。かつて足を運んだ遠軽駅が、現在では意味もなくなってしまったスイッチバック型の線形の上に立地しているのは、この名寄本線があったことによる。前掲した13線区を引き合いに出すまでもなく、北海道の鉄道路線はどんどん姿を消している。

kamuy02.jpg 鵡川までは体感的に思いのほか早く着き、駅前にはすでに代行バスが待っていた。鵡川から静内までのバスは、観光バス仕様のものでクッションも良かったので、初日にして早くも眠気を催してしまったが、なんとか寝落ちせずに静内駅にたどり着いた。序盤こそ、半ば放棄されて草生す駅に停車してく代行バスの旅にちょっとした感傷を覚えたりしたのだけれど、基本的には比較的生活臭の感じられる海沿いの国道を走っている時間が長く、沿線の風景にはさほど変化が見られない。天気が良ければ海の青が目に染みたのかもしれないが、今日はそんなでもないので、何となく、灰色の空を映し出す鈍色の海が眼前に広がっているという感じである。ところにより、自然災害の被害を受けた鉄道の痕跡が残されているらしいが、どちらかというと街並みを中心に窓の外を眺めていたので、そう言ったものはついに目に留まらなかった。

kamuy03.jpg 静内駅は、新ひだか町の玄関口となる駅なのだと思われる。駅自体の規模は大きなものではなかったが、優駿の産地らしく、馬を象ったモニュメントのある駅前周辺の街並みは、市制を敷いていない街のそれとしては破格とも言えるほどに発達していた。特に意外だったのが、ホテルの多さである。道南を旅していてつくづく感じることになるのだが、駅前旅館に限らず、この地域は何でもない街中に旅館や民宿がぽつぽつと点在していたりする。とにかく広大な北海道だ。主だった都市部にしか宿泊施設がないのでは、そこを行く旅人、観光客であるか、仕事で旅をしているかを問わず、いろいろ不便があるということなのかもしれない。そんな風に、都市化の著しい静内駅周辺には、イオンの店舗もある。実は昨夜、替えの靴下をもってきていないことに気が付いていたので、その辺で靴下を買えるとよかったのだが、時間が半端なのでイオンはまだ開店していないようだった。代わりにセブンイレブンも見つけられたので、靴下はそちらで手に入れることができた。ちなみにこの辺り、ファッションセンターしまむらもある。

 駅周辺をふらふら徘徊したら、都合の良いことに時間も程よく潰れた。最後に、駅舎の中にあった蕎麦屋でとろろそばをかっこむ。駅弁マニアの間では有名らしい静内駅の駅弁を名目上販売しているのは、どうやらこの店のようである。良い意味で有名なのかと言えばそうでもなく、静内の駅弁は予約しないと買えないのという、普通にイメージする駅弁としては首をかしげざるを得ないような状態になっている。どうやら各地で開催される駅弁大会に出品されるのが専らと言った感じの弁当らしく、一説には予約販売制の駅弁は、駅での販売実態がない弁当を駅弁というのは邪道ではないかという批判を受けてのものだともいう。もっとも、列車のやってくることがなくなった駅で弁当を売っても、商売としては成り立つまい。

 やがてやって来た様似行きのバスは、先ほどの観光バスとは打って変わって見るからに路線バスという風情のものだった。これでここからなお1時間40分余りを移動するのかと思うと、多少先が思いやられたが、実は静内~様似間の方がバスの走る道は変化に富み、飽きずにいられた。時に、「そりゃこんな波打ち際を走ってたら高波にやられるわい」というようなところに線路が敷設されているのを横目に見、時にちょっと山側に引っ込んだところで牧畜がおこなわれているのを見、街中を走り抜けたりもする。ちなみに内陸駅の一つ、日高東別駅は代行バスからもスルーされる。そんなに需要のない駅だったのだろうか。

kamuy04.jpg 12:15、日高本線の終着駅、様似駅に到着。日高本線は盲腸線なので、基本的にはここまで来たら来た道を引き返すことになる。ゲーム上、それだとあまりうまみがないので、少しでも効率的に動くために、道中の絵笛駅まで進んだところで様似方面にレーダーを撃ちこみ、引き返すこともしばしば行われるようだが、私はなおもバスを乗り継いで帯広に抜ける道を選択した。ちなみに、ここまでの代行バスはあくまでも鉄道路線の代わりと言う位置付けなので、JRの乗車券、ここでは前回も使った北海道フリーパスで乗車できることができるのだけれど、様似から途中の広尾までのJR北海道バスは、別途乗車券が必要になる。広尾から帯広までの十勝バスも同様である。列車のやってくることがなくなった様似駅は、半ば鉄道マニア向けの観光地と化しており、駅舎は言うに及ばずホームにも線路にも勝手に入り込みたい放題なのだが、駅舎の方では旅客営業が行われており、ここで帯広までの通しきっぷ(というか2日間通用の様似~帯広間乗り放題きっぷ)を買うことができた。乗り放題だが、別々に2区間のきっぷを買うよりいくらかは安いようで、これがあれば何もないことで有名な襟裳岬に行くこともできる。

kamuy05.jpg 問題は、ここでも2時間近い待ち時間が発生すること。せめてこの辺りに何か有名な観光地でもあれば時間をつぶしやすいのだが、場所柄からしてもちろんそういうわけでもない。この先何十㎞か進めば襟裳岬に至るし、そこを通過する目的で路線バスをチョイスしたという面もあるのだが、それを待つために時間を持て余すことになるという矛盾。調べた結果、近くにエンルム岬というちょっとした景勝地があるようだったので足を運んでみた。遠目からもそれとわかる、海側に突き出した高台がそれだったのだけれど、その取っ付きのところから少し階段を上った先がちょっとした展望台になっていただけだった。

kamuy07.jpg ついでに言うと、近くにはエンルムチャシと呼ばれるチャシ跡もあったようだが、これも具体的にどこがそれにあたるとかの解説があるわけではなかった。岬自体がなかなか険阻な地形なので、勝手気ままに歩けるような整備をされていないのは仕方がないところなのかもしれない。なお、岬の近くには様似郷土館という無料の資料館もあったが、異様に入りづらい雰囲気を醸し出していたので、外から眺めただけで駅に引き返した。

kamuy06.jpg 再び、駅でバスを待つ。北海道とは言いながら、気温はあまり低くなく、涼しいという感じではない。建物の中にいると、どちらかというと蒸す。そんな中で、様似駅からも近い街中のような場所でヒグマが目撃されたという注意喚起のポスターが掲出されていたのに肝を冷やした。実際の風景写真にヒグマの画像を合成しているのがナントの言えない不気味さを出している。ARというやつか。知らない街なので、クマが目撃されたのが実は駅至近の丘陵地だったとしたら大丈夫だろうかと、不安になってくる。

 例によって駅周辺をぶらぶらしていたら、バスがやって来た。今度のバスは、またしても路線バス仕様のものだった。まあ、路線バスなのだから当然か。曲がりなりにも観光地と言えるえりも方面に向かうせいか、乗客の数は意外に多い。風体からして鉄道使いや、鉄道使いまがいな老夫婦などが多いようだが、その観光の白眉となるだろうえりも岬は霧に煙っていた。

kamuy08.jpg 様似から帯広駅への中継地点となる広尾「駅」までは2時間弱を要する。その昔、広尾線という鉄道路線があったらしく、その名残らしい。現在、鉄道ならぬバスのターミナルとして利用されている辺りは宮之城線に通じるものがある。駅跡に、鉄道時代の名残をとどめる公園が整備されている辺りも。広尾でも30分の待ち時間が発生したが、もはや30分程度の待ちは、待ち時間とも思えなくなってきているのだから、慣れというのは恐ろしい。ちなみに、広尾駅の周辺にも旅館があった。こういう宿泊施設をうまく活用すれば、強行日程で北海道を駆け抜けなくても済むのだろうかと、思案にふける。

kamuy09.jpg ところで、廃駅としてはわりと顕著な痕跡を残す広尾駅だけれど、駅メモのデータ上に広尾駅という廃駅は存在しない。様似駅を出てからこっち、ひたすら様似駅にしか取れない状態が続く。ゲームとしてはいささか単調なのに加え、やがて夜のとばりも落ち、窓の外の風景を眺めるという感じでもなくなっていた。広尾から2時間ちょっとで帯広駅に到着。帯広くらいの町なら宿泊地とするのに不足はないのだけれど、明日の計画を考慮すると、今日はここからさらに2時間近くかけて釧路まで進まなければならない。札幌―旭川間のように列車本数が潤沢なら、それもさほど苦にはならないところだったけれど、こちら方面に走る特急スーパーおおぞらは、運行本数がそんなに多くない。帯広駅でも1時間半ほどの待ち時間が発生し、20:18にようやく出発できる予定だ。さすがに帯広で食事を摂っておかないと釧路まで持ちそうにはなかったので、駅周辺、そして駅ビル内で食事できるところを探したのだけれど、帯広の夜は早いのか、めぼしい店が見つからず、名物らしい豚丼にありつくことはできなかった。仕方なく、スピッツがエンドレスで流れる待合室で、セブンイレブンで買ったサンドイッチを食べた。何となく、熊本駅の夜が思い出される。

 真っ暗な中、列車はひた走り、釧路駅にたどり着いたのは22時直前のこと。降り立った釧路駅前には、飲食店はおろかコンビニの一軒も見当たらず、帯広で食事を済ませてきたことで事なきを得た。宿は駅を出てすぐのところにあったスーパーホテル。どうせ朝が早いので、チェックアウトの手続きが不要なこの系列を選んだのだが、朝食を捨てることになるのは残念なところだった。

 今朝のことがあったので、計画の見直しで対応できないかと思ったが、やはり始発で根室に向かわないことにはどうにもならない。その代わり、いろいろ検討する中で、夕張支線を取る方策も見えてきた。問題は、夕張支線を取りに行った場合、明日の宿を押さえている札幌に入るのが22時半過ぎというかなり遅いタイミングになること。いつもみたいにラーメンを食べたいと思っているのだが、さて、この時間はどうしたものか…。

つづく

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