九州完結の旅・その2

yatsushiro1.jpg あと熊本で残るのは肥薩線とくま川鉄道のみとなった。いずれも列車本数が多いとは言えない路線だが、前者については特に本数の少ない人吉以南区間を先にアイテムでやっつけているので、どうにか今日の日程に織り込むことができた。そうは言っても、熊本から人吉までが思いのほか遠い。八代までは比較的速やかに進めるのだけれど、まず八代駅で乗り継ぎ待ちが発生した。

7stars2.jpg 交通の結束点として、それなりに重要な八代駅ではあるけれど、駅周辺の街並みにさほど見るべきものはなく、改札付近で時間をつぶす。そうしていたところ、乗り換え待ちを指示していたホームに、やたら立派な列車がやってきた。概して、JR九州の列車は小洒落ている。普通列車と特急列車の境界が曖昧になるところは否めず、もしかしたら人吉にはこの列車に乗っていくことになるのかと錯覚しかかるが、やはりこの列車、メーテルの口利きでもなければ乗れなさそうなラグジュアリーぶりである。よく見ると、その車体には「SEVEN STARS IN KYUSYU」と書かれている。そう言えば聞いたことがある。そんなような名前のクルーズトレインとか呼ばれるものがあるという話を。というか、私はその化身も持っている。育成が進んでいないので、ロマンスカーの娘ほどの破壊力は出せないが、ゲームのななつ星も戦闘タイプの能力を持っている。ちょうど999にも戦闘用の車両が存在していたのとよく似ている。

7stars1.jpg ともあれ、ついうっかり乗り込みそうになったこの列車への乗車は、すんでのところで踏みとどまることになり、やがて八代駅を去り行くななつ星の後姿を見送ることになった。客を乗せていない回送列車なのかとも思っていたが、列車最後尾に大きな窓が取り付けられており、去り行くその車窓から乗客の影がちらりと見えた。たぶん彼らは、ネジになるべく見込まれた気骨のある乗客なのだろう。やたらに長大な編成だったので写真がうまく撮れなかったのだが、客一人当たりのパーソナルスペースは下々民が乗る列車とは比べ物にならないに違いない。

 八代から先の肥薩線は、駅間距離が短く駅数も多いので、なかなか進まない感覚がある。そしてまた、列車が走る球磨川沿いの地形の狭隘さが強く印象に残る。鉄道と国道のほかはさほどにも平地がなく、ただ清流と呼ばれるだけのことはある球磨川が眼下を流れている。さすがに飛騨川沿いや四国の祖谷のような険阻はないが、近世以前、人はどのようにして人吉と八代の間を往来したのだろうかと思わずにはいられない。

hitoyoshi.jpg 八代から1時間余りで人吉駅に到着した。熊本県内のこの地域の中心的な都市としてよいのだろうが、駅周辺はさほど繁華な雰囲気ではない。JRとくま川鉄道のホームは改札を経ずして移動できるようになっているが、一応駅前に出てみる。目に付くのは、城を象ったオブジェと、「祝 内村光良さん(熊本県人吉市出身) 第70回NHK紅白歌合戦総合司会」という看板を掲げるビル。それ以外は、いかにも田舎町の駅前という風景が広がっている。ウッチャンが人吉市出身という情報は知る人ぞ知る部分で、今から20年余り前の時点でもここ人吉には「うっちゃんの里」という看板が存在していたという話があったように記憶している。地元の人のウッチャンに対する思い入れはかなり強いものがあるらしい。普通、地元出身の芸能人が紅白歌合戦の司会を務めるからと言って、ここまでエールは送らないものと思われる。ウッチャン愛とともに、ここ人吉における紅白の威光も感じられる。

 その後、くま川鉄道の乗り場に移動したが、目の前の崖には大村横穴群と呼ばれる穴が開いている。人工的な穴らしく、どうも大昔の墓の跡らしいが、その下を駅裏にしては恐ろしく殺風景な辻が通っており、地元の高校生が歩いていく。気が付けば、学生の下校時刻に差し掛かっていた。気温もかなり下がってきているようだ。やってきた列車に、寒気から逃れるようにして乗り込んだ。

 地方のローカル線というと、経営状態は青息吐息で、走っている列車はロートルも良いところという偏見を持っているが、そんなに大手とは思えないくま川鉄道の車両は、やけにお洒落で、しかもなぜか三両編成だった。外装には「DEN-EN SYMPHONY」と書かれている。九州の列車界ではこういうデザインが流行っているのだろうか。ただこの田園シンフォニー、どうやらメーテルがいなくても乗れるのは間違いなさそうである。いつの間にか人吉駅とつながる人吉温泉駅に集っていた高校生が軒並み列車に乗り込んでいくのを見てそう思った。編成が長いのは、通学の足として使われるためらしい。

kumagawa.jpg 高校生がメーテルの列車に乗れるはずがないとは思ったものの、何となく若者の方が部材として使用するには都合が良さそうな気もする。そんなことを考えていたが、次第に車内は洒落にならないほどの数の高校生であふれかえるようになり、高校生以外の乗客などは私一人と言ったような有様になった。なんだか非常に居心地が悪い。窓の外を流れていく田園風景を見たり、車内のクリスマスデコレーションを見たりしながら気を紛らせ、先を目指す。さすがに高校生は次第にその数を減らしていったけれど、終着駅となる湯前駅まに至るまで、一定数の学生は残っていた。本数の少ない列車で遠くまで通学している高校生は、田舎ではしばしば見かけるが、大変そうだなと思う。湯前駅に降りた彼らは、駅前で待っていた家族の迎えの車に乗り込んだり、駅の並びにある物産センターみたいなところに入り込んで、やっぱり人を待っている風である。

 私はというと、特にこの駅ですることもない。駅に来ること自体が目的だから仕方がない。それでもひとしきり駅周辺を歩いてみた。車窓風景が主に田園地帯だったので、農村の真ん中に降り立ったかのように思っていたのだが、少なくとも湯前駅周辺は、田舎町でこそあれ、農村地帯というわけではなさそうだった。ちなみに、九州山地の最奥と言われる宮崎県の椎葉村の最寄りがこの駅となるらしい。その程度には内陸部に入り込んではいるけれど、バスなどで椎葉村と結ばれているわけではない。

 20分ほど滞在して、人吉駅に引き返す。今度の車中には、帰宅時間帯の勤め人の姿が多くあった。湯前駅周辺が、この地域の文化経済の周辺と言ったところか。逆に人吉まで乗り通した客は、それほど多くなかった

 人吉駅に着いた頃は、まだ辛うじて残照が辺りを照らしていたけれど、八代行の肥薩線が発車する時には、盆地の街に夜のとばりが下りていた。また1時間半近くをかけて八代に戻り、そこからさらに30分ほどかけて熊本市内に戻った。宿は、熊本の繁華街・下通の一画にあったKⅡホテル下通。平たく言えばカプセルホテルである。ウナギの寝床みたいな敷地に建っており、規模はさほど大きくないが、安さが身上と言った雰囲気だった。施設は新しい反面、最大の弱みは寝室内にテレビがないことだったが、チェックインが割と遅い時間帯になったので、長々時間をつぶす必要には迫られなかったのは幸いだった。

 ちなみに、ジョジョリオンとゴールデンカムイの新刊が前日に発売されているはずだったので、近くの書店で探したのだけれど見つからず、店員からは発売日は明日であると言われた。熊本は書籍が一日遅れで発売される地域なのだろうか。カプセルにこもってマンガを読めなかったのと、施設の特性上広い風呂が使えなかったのは残念だったというよりない。

つづく

この記事へのコメント