山登ってみよう【縦走東海自然歩道・本栖湖~河口湖・後編】

 今日のコースは、大まかに言って三部構成のようになっている。樹海を歩く中盤、足和田山を歩く中盤、富士河口湖町の郊外を歩く中盤と言った具合だ。鳴沢氷穴まで歩いたところで樹海は終わり。ここから先は、ごくオーソドックスな山歩き区間となる。ちょっと樹海の風景に飽きが来ていたこともあり、当たり前に展望を楽しめそうな山歩き区間には、期待が高まる。特にこの区間は、東海自然歩道が整備された際、最初期に整備されたモデルコースだという。連邦のMSで言えばガンダムのようなもの、優等生的なハイキングコースとなっているに違いない。

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 というわけで、足和田山への登りに取り掛かる。山と言っても、周辺標高が1000m近いところにある1300mのほどの高まりなので、低山みたいなものだ。さほど苦もなく登れるに違いない。この考えが、甘かった。ここまで2時間余り歩いてきているのでそれなりに疲れはたまり始めているし、さりとて体が山登りモードに入っていないので、思ったよりは骨が折れる。それほど長い山歩きにはなりようもないので、わりと一気に登らせようとするコース設計になっているのかもしれない。黙々と冬枯れの山道を歩く。相変わらず晴れがましさのない道だが、こういう枯れたムードの山歩きは、意外に嫌いではない。

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 足和田山の導入に位置する紅葉台は、すっかり観光地化されていて、レストハウスがあり、展望台のあるようなところだ。ついでに言うと、木曽馬牧場なんていう施設もあるようで、在来馬スキーの私としては、ここだけはぜひ立ち寄ってみたかったのだが、東海自然歩道は木曽馬牧場を外しつつ尾根を登って行った。web地図でしか位置関係を確認していなあったのがわが身の不覚、東海自然歩道と牧場の高低差は数十メートルほどはある。残念なことだったが、足和田山に取り付いてから20分ほど、11:29にまずはその紅葉台のレストハウスにたどり着いた。富士山が良く見える。今日のコースは前回ほど至る所で富士山を望めるわけではない。特に前半は樹の海に没していたことだし。

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 足和田山のコース上には、○○台と名のつく地点が三箇所ある。一つはこの紅葉台。文字情報でしか知らないので、「こうようだい」なのか「もみじだい」なのかはよくわからない。たぶん、季節が良ければ紅葉の名所なのだろうことは容易に想像できる。残る二つは、三湖台と五湖台。事前に情報収集していた時には漫然と接していて深く考えていなかったのだが、恐らくそれぞれ三つあるいは五つの湖を望むピークの意味なのだと思われる。紅葉台前後から、進行方向左手には西湖が見えてきた。紅葉台からは大した登りもなく、11:37に三湖台に到着。東海自然歩道は、その片隅をかすめて先の五湖台に向かう形になっているが、山上とは思えない広い平地の向こうに展望所らしきものが見えたので、一度そちらをのぞいてみることにした。

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 なるほど、東海自然歩道のモデルコースという謳い文句にも合点がいくような、絶景が広がっていた。南側に背負う形となる富士山の立ち姿は王道中の王道とでもいうべき光景だけれど、富士五湖のうち三湖を見渡せると思われる北面の風景も壮観だ。良く聞かれる感想ながら、高所から見下ろす青木ヶ原樹海は、正しく樹の海である。そのような感想を持った人たちは、ちょうどこの三湖台のような場所から樹海を眺め下したのだろう。湖の周りに、一面の大森林が広がっていた。ただ、三湖というのには少し不審が残った。どうも、この場所からは二湖しか見えないのではないか。一つはもちろん直下に位置する西湖。そしてもう一つの湖は西方にある。精進湖?確信はないけれど、本栖湖のような気がする。精進湖に関しては、一瞥だにしていないので確信が持てなかった。

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 三湖台でしばし足を止めた後、今度は五湖台を目指す。このままほぼアップダウンもなく五湖台まで至るものかと思いきや、いったんまとまった高度を下げた後、もう一度登り返すコースとなっていた。五湖台は、足和田山の最高ピークである。一般には五湖台=足和田山とされていると言って差し支えない。もともと起伏がさほど激しくないこともあり、遠くには見えないピークだったけれど、移動には意外と時間を要し、約40分ほど後の12:24、五湖台に到達。わりとちゃんとした展望台もある、いかにもハイキング向けの低山という雰囲気だった。ただ、山頂周辺の木が良く育っていることもあり、五湖は望むべくもなかった。辛うじて見えたのは、西湖と河口湖の二つだけ。木がなければ、三湖台のケースから想像して本栖湖は見えたのだろうが、精進湖、ましてや山中湖を見ることは果たしてできたのか。まあ、五湖台の意味するところが富士五湖であるという確信もない。

 それにしてもこの地点で12:24だとすると、中央本線で帰るという目論見はかないそうな気がしてきた。山を下るのに40分、富士河口湖町の中心部付近で東海自然歩道を離脱するまでに1時間、そこから富士急河口湖駅まで20分。十分現実味があった。あまり展望を望めなかった五湖台は早々に退去し、山を下る道に入る。おおむね緩やかに登って来たこれまでの道とは対照的に、一気に高度を下げる。その割に、比較的近くに見えた山麓の家並みに出るまでには時間がかかった。約30分で鳴沢村大田和地区に下山。村とは言え、山間集落のようなことはなく、思いのほか民家が多い。ただ、「不審者はすぐ通報!村内一斉放送します。」というどぎつい看板が立っていて、なんだか物騒な空気はあり、牧歌的とばかりも言っていられない。不審者かどうかは自分で判断するものではなく、人がどう見るかの問題だから恐い。東海自然歩道踏破などという、はたから見れば何が楽しいのかわからないだろう事業に取り組んでいる私なども、不審者みたいなものだと思うのだがどうだろうか。

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 さて、山を下り、曲がりなりにも街中と言えるところまで下ってくると一つの悩ましい問題が出て来る。道がわからない。これまで歩いてきた経験上、東海自然歩道のコースを正確にトレースする歩き方は、コースを整備する側からさほど需要がないものと判断されているのかもしれない。歩道を整備した府県にもよるが、遭難の心配も利用者も少なそうな市街地・村落歩行用の指導標をあまり設置してくれていないところは確かに存在する。滋賀とか大阪とかがそうだ。山梨も、どちらかと言えばこのグループに入る気がする。実際、この辺りまで来ると辻々に指導標が立っているというようなこともなく、手探りで先に進むような状況になった。頼みのYAMAPも、基本的には山歩き用アプリなので、市街地エリアの東海自然歩道がどこを通っているのかまでは示してくれていない。

 一応、事前に特徴的な線形の道だけは覚えておくようにしたので、100%トレースはできなかったかもしれないが、なんとか指導標のある辻に行き着いた。そこからは、基本的に道なりにまっすぐのはずだ。リゾートイン白樺という、いかにもそれらしいリゾートホテルのところまで出たことで、いよいよその思いを強くした。もっとも、くだんのホテルは国道139号バイパスの向こう側にある。わりと若番国道の、しかもバイパス。片側2車線の、見るからに主要幹線道路という感じの大道だが、信号がない。今日の序盤に歩いたように、地下道があるわけでもない。消えかけたような横断歩道があるだけだ。案の定、車は全然停まってくれなかったが、幸い200mほど離れたところにはちゃんとした信号があって、そちらが赤になったことで車の流れが途切れたので、その隙に一気に国道をかけ渡った。今にして思えば、多少遠回りでもそちらの信号まで歩くのが正解だったのだと思う。とにかく難所を越え、樹間の砂利道に進路を取った。山道ではない。八ヶ岳とかの高原地帯にでもありそうな、平たんな林間の道だ。田舎道という雰囲気ではない。単なる田舎の砂利道で、ボンゴレの匂いが漂っているはずはない。

 ただまあ、自然歩道としては特にみるべきもののない道だ。林の中にリゾートホテルやグランピング施設の類はあるけれど、私などは素ピングですら縁がなさそうなので、異世界の出来事を見るような疎外感に見舞われる。こういうところを歩くなら、山間の限界集落みたいなところを歩く方が、まだ心に響いてくる何かがあるというものだ。

 ところで、このエリアは民家などもほとんどないせいか、指導標も一時的に充実を見ていた。山梨県コースの中でも、整備が放漫なのは飛び地みたくなっている南部町域だけだったのだろうかと思い始めていた。思えば、南部町の指導標は年季の入った古めかしいものだった。対照的に、この辺りにあるのはそれなりに新しい指導標だ。次のチェックポイントまでの距離も表示されていて、そういったところも後期型の指導標を思わせる。痩せても枯れても、東海自然歩道のモデルコース、フラッグシップモデルと言ったところか。しかし、林の中を抜けたところでちょっとした問題に突き当たった。指導標が次に指し示す場所が、河口湖総合公園となっていた。

 今日の東海自然離脱ポイントは山梨県立富士山世界遺産センターと決めている。自然歩道と強ち無関係の施設でもないし、指導標もそこを示してくれるものだとばかり思っていたら、たぶんどうということもないだろう都市公園を示された。そちらに進むべきなのだろうか。迷った挙句、一応は指導標に従うことにしたが、その結果、道中で完全にコースをロストした。別に、公園に行っても何があるというわけでもなさそうだし、ここはおとなしく富士山世界遺産センターを目指すことにした。この回り道のせいで、いくらかは余裕をもってゴールできそうだった行程は、再び雲行きがおかしくなってきた。間に合わないとは言わないが、わりとギリギリになるのではないか。帰りの経路を御殿場ルートに方針転換しようにも、まだ希望がちらついているので、開き直ってのろのろ歩くわけにもいかない。

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 気は逸るが、幸いなことに、おおよその見当で歩いていたら再び東海自然歩道の指導標に行き当たった。結果的には、林の道を抜けてもなお直進方向に歩いておけば、危ない橋を渡ることにならずに済んだのではないか。いずれにせよ、このタイミングで正規ルートに戻れたなら、まだ間に合うかもしれない。この先は、ほぼ市街地歩行しかないはずだ。そうたかをくくっていたら、進行方向に立派なホテルの建物が見え始めたところで、道は唐突に傍らの雑木林に入って行った。もちろん、移動効率は舗装道より落ちるので、焦りは募る。ほとんど富士河口湖町の街中と言って良いような場所だ。この林もそんなに長くは続かないはずだは思う。実際、付近の様子を見ている限り、近所の人の犬の散歩にも歩かれるような場所らしい。そんなところに、剣丸尾溶岩流と書かれた看板が朽ちかけていた。流出した溶岩が一枚岩のようにならずにガラガラの岩の堆積地帯となった部分を丸尾地形というのだそうだが、、落ち葉などが降り積もっていて、溶岩地形なのかどうかもはっきりしないような状態になっている。急いでいることもあり、そそくさと歩くと、ほどなく林を抜けた。その先に、富士山世界遺産センターがあった。もちろん、立ち寄って行く時間はない。あくまで今日のセーブポイントとして、正面入り口を冷やかした。時刻は14:03。電車の出発までは残り20分しかない。

 センターの目の前にある国道139号の交差点で、再び足止めを食う。小一時間ほど前、苦労して渡った国道を、もう一度反対側に渡り返さなければならない。東海自然歩道の経路から百メートルと離れていない場所だけれど、かつてないほどに都市化された場所だ。体感的にはかなり長く待った後、とにかく国道を渡り切り、県道にそって北方向に向かった。ギリギリ間に合うか間に合わないか。いよいよのるかそるかと言った感じになって来た。まったく、20km以上歩いてきてなぜこんなにギリギリになるのか、なんだか最近流れている競馬のテレビCMを思い出した。最後、河口湖駅手前の踏切で、ほかならぬ富士急の特急による足止めを食わされたが、どうにか予定の電車には間に合った。YAMAPの記録を終了する暇もなく、駆け込み乗車まがいに列車に飛び乗った。直後、列車のドアが閉じ、大月駅に向かって出発した。余裕があるなら河口湖沿岸の観光としゃれこみたいくらいだったが、わずか1㎞足らずのところにある河口湖に行くことすらままならなかった。

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 最後が恐ろしくせわしなかったが、とにかく最初の計画通りに事は運んだ。中央本線で帰宅するにあたり、乗り換えが生じたのは、大月駅、甲府駅、塩尻駅。それぞれ、思い出のある駅ではある。特に、大月駅から見える巨大な岩峰・岩殿山城は思い出深い。今回は、乗り換え待ちのわずかの間に遠望するだけに終わった。代わりに、甲府駅に新たに建立された武田信虎像の写真を撮って帰った。有名な肖像画をそのまま立体化したような、迫力ある造形だった。まったく東海自然歩道と関係のない観光気分に浸りかけていたが、甲府駅から走り出した列車の窓から、八ヶ岳や鳳凰三山を見ていたら、気持ちが山に引き戻された。

 次回は、河口湖駅から山中湖まで歩くことになる。山中湖は、丹沢山地の西端に位置する。基本的には、丹沢にベタ付けするため、比較的平たんな地域を歩くのがメインとなるはずだ。最後の最後に、若干の山地が控えるが、多少降雪があっても歩けるのではないか。春先に山中湖まで道をつなげ、五月の連休で丹沢に挑むのが良いか。冬のうちに山中湖まで進むのがいいか。思いはそんなところを堂々巡りしていた。

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